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Au Clair De La Lune / Édouard-Léon Scott De Martinville (1860)

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Au Clair De La Lune / Édouard-Léon Scott De Martinville (1860)

エドゥアール=レオン・スコット・ド・マルティンヴィル(Édouard-Léon Scott de Martinville)は、19世紀フランスの印刷業者でありながら、音の記録という全く新しい概念に挑んだ発明家です。彼は1857年に「フォノートグラフ(phonautograph)」という装置を発明し、音の波形を視覚的に記録することに成功しました。これは、現代の録音技術の始祖とも言える発明でしたが、当時の技術では記録した音を再生することはできませんでした。

© Public Domain via Internet Archive

この装置を用いてスコットが1860年4月9日に録音したフランスの伝統的な子守歌「Au Clair de la Lune(オ・クレール・ド・ラ・リュヌ)」の一節は、2008年にアメリカの音響研究チーム「First Sounds」によって発見・再生され、現存する人類最古の録音音声として広く知られるようになりました。この録音は黒い煙煤(すす)を塗った紙に音の波を描き、それを光学スキャンし、コンピューターで解析することで初めて再生に成功したのです。

この録音には長年の誤解がありました。最初に再生された音源は、再生速度が速すぎたため高い女性の声のように聞こえましたが、その後正確なスピードで調整された結果、落ち着いた男性の声でゆっくりと「Au Clair de la Lune」の一節が歌われていることが確認されました。つまり、それはおそらくスコット本人の声だったと考えられています。

この録音は、1877年のトーマス・エジソンによる再生可能な録音技術の発明よりも17年も前に行われたものであり、録音の「可視化」から「可聴化」への歴史の橋渡しを示す重要な遺産です。スコット自身は、この音の記録技術により、人間の声を「見える形」に残すことで、言語や発声の科学的理解を深めようと考えていましたが、彼の試みはその時代の中では忘れられていきました。

しかし、現代の技術によってスコットの記録が復元されたことは、単なる歴史的好奇心にとどまらず、科学と人間の探究心が時代を超えてつながる力を持っていることを証明しています。「Au Clair de la Lune」の1860年録音は、音の記録が時間を越えて人々に届くことを示した象徴的な出来事であり、録音技術の夜明けを告げる“月明かり”のような存在なのです。

実際に再生可能な音声記録を作成し、商業的な録音技術の先駆けとなったのは、1877年にエジソンが発明したPhonographによるものです。

Title

Performer

Authors and Composers

  • French Folk Song

Disc Information

  • タイトル:Au Clair De La Lune
  • 演奏者:Édouard-Léon Scott De Martinville
  • 録音日:1860年4月9日
  • ディスク(シリンダー)情報:Cylinder, Phonautogram
  • 録音場所:France
  • レーベル:Self-Recording

References