1878年–1886年までの録音・音声記録
1878年–1886年は、トーマス・アルバ・エジソン(Thomas Alva Edison, 1847–1931)のフォノグラフ(Phonograph)が公開実演と技術実験の対象になった時期から、アレクサンダー・グラハム・ベル(Alexander Graham Bell, 1847–1922)らのヴォルタ研究所(Volta Laboratory)による改良実験を経て、グラフォフォン(Graphophone)の特許成立へ向かう時期です。世界では、1878年のベルリン会議(Congress of Berlin)で露土戦争(Russo-Turkish War)後のヨーロッパ秩序が再調整され、1884年–1885年のベルリン西アフリカ会議(Berlin West Africa Conference)ではアフリカ分割をめぐる国際的枠組みが作られました。日本では、1881年の国会開設の勅諭、1885年の内閣制度創設など、明治国家の制度整備が進みました。
録音史では、エジソンの初期フォノグラフが錫箔(tinfoil)を使った実験装置・公開実演装置として注目された一方で、錫箔媒体は保存性や反復再生に限界がありました。1878年には、アメリカ合衆国(United States of America)ミズーリ州セントルイス(St. Louis, Missouri)での錫箔録音、メトロポリタン高架鉄道(Metropolitan Elevated Railroad)の騒音を記録したフォノートグラム(Phonautogram)、実験用トーキング・クロックの記録など、録音・音声記録の用途が実演、調査、機械制御へ広がりました。1880年代前半には、ベル、チチェスター・ベル(Chichester A. Bell, 1848–1924)、チャールズ・サムナー・テインター(Charles Sumner Tainter, 1854–1940)らが、ワックス、ガラス、金属、紙板などを使って録音媒体と再生方法を検討し、1886年のグラフォフォン関連特許へつながる実験を重ねました。この期間は、商業録音産業が成立する前段階にあたり、音を一時的な現象ではなく、保存・再生・分析できる対象として扱う考え方が具体化していった時期です。
1878年
1878年は、エジソンのフォノグラフが、発明直後の話題性を超えて、公開実演、音響調査、機械装置への応用実験に使われはじめた年です。錫箔フォノグラフによる公開実演録音、都市鉄道の騒音を記録したフォノートグラム、時計装置への応用実験に関わる音声記録が残されており、音を保存・再生・分析の対象として扱う試みが複数の用途へ広がっていたことを示しています。
この年の確認されている録音:3曲
6月22日
セントルイス錫箔録音(St. Louis tinfoil recording)は、1878年6月22日にセントルイスで作成された錫箔フォノグラフ録音です。録音は約78秒で、短いコルネット独奏、メリーさんのひつじ(Mary Had a Little Lamb)、オールド・マザー・ハバード(Old Mother Hubbard)の朗読、笑い声を含みます。演奏者・朗読者は確認されていませんが、現存する再生可能な初期録音として重要な位置にあります。
| Title | Artist | Matrix | Catalog No. |
|---|---|---|---|
| St. Louis tinfoil recording | N/A |
【1878年6月22日の出来事】
・ベルリン会議の会期中
1878年6月22日、ヨーロッパではベルリン会議の会期中でした。ベルリン会議は1878年6月13日–7月13日に開かれ、露土戦争後のバルカン半島をめぐる国際秩序が再調整されました。アメリカ合衆国でフォノグラフの公開実演録音が行われていた同じ時期に、ヨーロッパでは19世紀後半の国際政治秩序を左右する外交交渉が進んでいました。
9月
Metropolitan Elevated Railroad from 40 feet away は、1878年9月にメトロポリタン高架鉄道の騒音調査のために作成されたフォノートグラムです。エジソンはフォノグラフを、音を再生する装置ではなく、煤を付けた紙に音の波形を記録する装置として改造し、チャールズ・バチェラー(Charles Batchelor, 1845–1910)がこの記録を作成しました。再生された音には、調整・試験用とみられる声と、列車または高架構造物に由来する騒音が含まれます。
| Title | Artist | Matrix | Catalog No. |
|---|---|---|---|
| Metropolitan Elevated Railroad from 40 feet away | Charles Batchelor |
【1878年9月の出来事】
・クレオパトラの針の設置
1878年9月、ロンドンではクレオパトラの針(Cleopatra’s Needle)がテムズ川(River Thames)沿いに設置されました。古代エジプトのオベリスクが19世紀の帝国都市ロンドンの記念物として移設された出来事であり、同じ時期にニューヨークでは都市交通の騒音が録音・分析の対象になっていました。
1878年頃
フランク・ランバート(Frank Lambert, 1851–1937)の実験用トーキング・クロック(Experimental Talking Clock)は、時刻を音声で知らせる機械を目指した実験装置です。録音は1878年頃のものとされ、ランバート自身が時刻を読み上げる声を含みます。年代は1878年または1879年とされる資料もあるため、ここでは1878年頃の録音として扱います。音声の一部には不明瞭な発話や逆回転で録音された可能性のある箇所も含まれ、初期フォノグラフが娯楽だけでなく、時計装置や自動告知機構への応用を試みられていたことを示しています。
| Title | Artist | Matrix | Catalog No. |
|---|---|---|---|
| Talking clock | Frank Lambert |
【1878年頃の出来事】
・電灯実用化への研究が進む
1878年頃、エジソンはフォノグラフの公開実演で注目を集める一方、白熱電灯の実用化に向けた研究も進めていました。音声を記録・再生するフォノグラフと、都市生活を変える電灯は、いずれも19世紀後半の発明文化を象徴する技術でした。録音技術がまだ実験段階にあった時期、電気照明もまた、研究室での実験から社会的インフラへ向かう過程にありました。
1879年
1879年は、フォノグラフの公開実演がヨーロッパ各地にも広がり、錫箔録音が実演の場で作成された年です。この年には、ノルウェー王国(Kingdom of Norway)のクリスチャニア(Kristiania)で作成された錫箔録音が残されています。録音内容は完全には確定していませんが、初期フォノグラフの公開実演が、アメリカ合衆国だけでなくヨーロッパでも音声記録を伴って行われていたことを示す資料です。
この年の確認されている録音:1曲
2月5日
1879年2月5日、クリスチャニアのチボリ(Tivoli)でフォノグラフの実演が行われ、錫箔録音が作成されました。この録音は、ペーデル・ラーセン・ディーセト(Peder Larsen Dieseth, 生没年未確認)が賛美歌を歌った記録として伝えられています。ただし、復元音から歌詞や発声内容を明確に確認することはできていないため、内容については断定できません。ノルウェーにおける初期フォノグラフ実演と錫箔録音の受容を示す資料です。
| Title | Artist | Matrix | Catalog No. |
|---|---|---|---|
| Tinfoil recording, 1879 | Peder Larsen Dieseth |
【1879年2月5日の出来事】
・ジョゼフ・スワンの白熱電球公開実演
この2日前の1879年2月3日、ジョゼフ・スワン(Joseph Swan, 1827–1914)はニューカッスル・アポン・タイン(Newcastle upon Tyne)のニューカッスル・アポン・タイン文学哲学協会(Literary and Philosophical Society of Newcastle upon Tyne)で、作動する白熱電球を公開実演しました。音声記録がヨーロッパの実演会場に広がっていた同じ時期、電気照明もまた、実験室の技術から都市生活を変える技術へ進みつつありました。
1880年
1880年の再生可能な録音資料は確認されていません。この年は、ベルとテインターが音を光線で送るフォトフォン(photophone)の実験を進めた時期にあたります。1880年2月28日と4月6日には、フォトフォン関連資料がスミソニアン協会(Smithsonian Institution)へ封印寄託されました。これは録音資料ではありませんが、音を物理的に記録するフォノグラフやグラフォフォンとは別に、音声を光で伝送する技術が研究されていたことを示しています。
1881年
1881年は、ヴォルタ研究所でフォノグラフを改良し、ワックスを使う録音媒体や、音声記録を電鋳で保存する方法が試された年です。9月頃の実験では、フォノグラフ由来の装置を用いた音声記録が作られ、10月にはディスク状の音声記録を金属化して保存する試みが行われました。これらは商業録音ではありませんが、錫箔録音からワックス媒体とグラフォフォンへ移る過程を示す重要な実験記録です。
この年の確認されている録音:2曲
1881年9月頃
ヴォルタ研究所の資料番号312123は、1881年9月頃に作成されたワックス媒体のシリンダー録音です。フォノグラフの溝を広げ、そこにワックスを充填して縦振動で録音したもので、グラフォフォンへ向かう改良実験の一部にあたります。資料上は、アレクサンダー・メルヴィル・ベル(Alexander Melville Bell, 1819–1905)が1881年9月25日に口述した可能性が示されています。発話には、ウィリアム・シェイクスピア(William Shakespeare, 1564–1616)の『ハムレット(Hamlet)』に由来する一節と、「I am a Graphophone and my mother was a Phonograph」という自己紹介的な文が含まれています。
| Title | Artist | Matrix | Catalog No. |
|---|---|---|---|
| There are more things in heaven and earth Horatio, than are dreamed of in our philosophy | Alexander Melville Bell |
【1881年9月頃の出来事】
・ジェームズ・エイブラム・ガーフィールドの死去
1881年9月19日、アメリカ合衆国大統領ジェームズ・エイブラム・ガーフィールド(James Abram Garfield, 1831–1881)がエルベロン(Elberon, New Jersey)で死去しました。ガーフィールドは同年7月2日に銃撃され、その後の治療を経て9月に亡くなりました。ヴォルタ研究所で音声記録の改良実験が進められていた同じ月、アメリカ合衆国では大統領暗殺事件が政権交代と政治改革論議につながっていきました。
10月17日–20日頃
ヴォルタ研究所の資料番号312119 [1] は、1881年10月17日–20日頃に作成された横振動フォノグラムの陰刻電鋳盤です。パラフィン・ワックス組成に刻まれた音声記録を金属化したもので、音を記録するだけでなく、記録面を保存・複製する方法を探る実験でした。再生は部分的にとどまり、録音内容や発話者は確認されていませんが、ディスク状の音声記録を電鋳で保存する初期実験として重要です。
| Title | Artist | Matrix | Catalog No. |
|---|---|---|---|
| Untitled | N/A |
【1881年10月17日–20日頃の出来事】
・ヨークタウン降伏百年祭の開催
1881年10月19日、バージニア州ヨークタウン(Yorktown, Virginia)では、ヨークタウン降伏百年祭(Centennial Celebration of the Surrender at Yorktown)が開かれました。これは、アメリカ独立戦争(American Revolutionary War)で1781年10月19日に英軍が降伏したことから100年を記念する行事でした。ヴォルタ研究所で音声記録を金属化する実験が行われていた同じ時期、アメリカ合衆国では独立戦争の記憶を国家的な式典として再確認していました。
1882年
1882年の再生可能な録音資料は確認されていません。この年は、1881年にヴォルタ研究所で行われたワックス媒体や電鋳による音声記録実験の後続期にあたります。ベル、チチェスター・ベル、テインターらの研究は、フォノグラフの錫箔記録から、より扱いやすいワックス媒体とグラフォフォンの構想へ向かって進みました。録音リストに入れられる資料はありませんが、1880年代前半の改良実験が、1885年の特許出願と1886年のグラフォフォン成立へつながる流れの中に位置づけられます。
1883年
1883年は、ヴォルタ研究所でワックスやディスク状媒体を使った録音実験が継続された時期です。日付を1883年単年に限定できる再生可能な録音資料は確認されていませんが、1883年–1884年頃に作成されたとみられるフォノグラム資料が残されています。この時期の実験は、音声を一時的に刻むだけでなく、記録面の材質、溝の形式、保存方法を検討する段階にあり、のちのグラフォフォンの構想へつながりました。
1883年–1884年頃の確認されている録音:1曲
1883年–1884年頃
ヴォルタ研究所の資料番号287859は、1883年–1884年頃に作成されたとみられる縦振動フォノグラムの石膏型です。真鍮リング内に形成されたディスク状の資料で、紙板台紙が採用される前の実験段階に属すると考えられています。録音内容や発話者は確認されていませんが、ワックスや紙板を用いた1885年頃のディスク状録音へ進む前段階として、ヴォルタ研究所が記録媒体と成型方法を検討していたことを示しています。
| Title | Artist | Matrix | Catalog No. |
|---|---|---|---|
| Untitled | N/A |
【1883年–1884年頃の出来事】
・標準時制度の導入
1883年11月18日、アメリカ合衆国とカナダ(Canada)では、鉄道運行の混乱を避けるため、標準時制度(standard time system)が導入されました。各地の地方時に依存していた時刻管理は、鉄道網の拡大によって実用上の限界を迎え、広域交通に対応する共通の時間制度が必要になりました。音声記録の実験が進んでいた同じ時期、時間そのものもまた、近代的な交通と通信の制度に組み込まれていきました。
1884年
1884年は、ヴォルタ研究所でガラス円盤と写真乳剤を使ったフォノグラム実験が行われた年です。音の振動を機械的に刻むだけでなく、光学的な記録として残す方法が試され、11月17日には「phonography」と「barometer」という語に関わる音声記録が作成されました。これらは商業録音ではありませんが、グラフォフォンへ向かう技術実験の中で、記録媒体、記録方式、再生可能性が多角的に検討されていたことを示しています。
この年の確認されている録音:2曲
11月17日
ヴォルタ研究所の資料番号287679と資料番号287686は、1884年11月17日に作成された写真乳剤フォノグラムです。どちらもガラス円盤上の写真乳剤に音の振動を記録した資料で、資料番号287679には「phonography」、資料番号287686には「barometer」という語の記録が示されています。発話者は確認されていません。機械的な溝に刻む録音とは異なり、音の振動を光学的な痕跡として残す実験であり、ヴォルタ研究所が録音媒体と記録方式を幅広く検討していたことを示しています。
| Title | Artist | Matrix | Catalog No. |
|---|---|---|---|
| phonography | N/A | ||
| barometer | N/A |
【1884年11月17日の出来事】
・ベルリン西アフリカ会議の開会直後
1884年11月17日は、ベルリン西アフリカ会議の開会直後にあたります。ベルリン西アフリカ会議は1884年11月15日–1885年2月26日に開かれ、コンゴ川流域(Congo River basin)を中心に、中央アフリカ(Central Africa)をめぐる通商、植民地化、領土主張の枠組みが協議されました。ヴォルタ研究所で音声を写真乳剤に記録する実験が行われていた同じ時期、国際政治ではアフリカ分割をめぐる制度的な協議が始まっていました。
1885年
1885年は、ヴォルタ研究所の録音実験が大きく展開した年です。3月には写真乳剤フォノグラムによる音声記録が作成され、4月にはワックスを塗布した紙板ディスク上に、数詞の読み上げや音楽断片を含む録音が残されました。一方で、春–夏頃には紙帯状媒体や小型シリンダーを用いる構想も検討され、録音媒体はガラス円盤、紙板ディスク、紙帯、シリンダーへと広がりました。同年6月27日には、チチェスター・ベルとテインターがアメリカ合衆国特許第341,214号(United States Patent No. 341,214)を出願し、1886年のグラフォフォン成立へつながる技術的基盤が整えられていきました。
この年の確認されている録音:4曲
3月11日
ヴォルタ研究所の資料番号287654.11は、1885年3月11日の写真乳剤フォノグラムです。ガラス円盤上の写真乳剤に音の振動を記録した資料で、日付は再生結果から確認されたものです。再生では、メリーさんのひつじ(Mary Had a Little Lamb)に由来する「Mary had a little lamb」という発話が確認されています。発話者は確認されていません。
| Title | Artist | Matrix | Catalog No. |
|---|---|---|---|
| Mary had a little lamb | N/A |
【1885年3月11日の出来事】
・『ミカド』初演の直前
1885年3月11日は、ロンドン(London)のサヴォイ劇場(Savoy Theatre)で『ミカド(The Mikado; or, The Town of Titipu)』が初演される3日前でした。『ミカド』は、ウィリアム・シュウェンク・ギルバート(William Schwenck Gilbert, 1836–1911)が台本を、アーサー・サリヴァン(Arthur Sullivan, 1842–1900)が音楽を担当したオペレッタです。ヴォルタ研究所で音声を写真乳剤に記録する実験が行われていた同じ週、ロンドンでは後に広く知られる舞台作品が初演を迎えようとしていました。
4月15日
ヴォルタ研究所の資料番号287881は、1885年4月15日に作成されたワックス塗布紙板ディスク(wax disc on binder’s board)の録音です。資料には「Disk A. G. B. No. 1」と記され、添付文書では「Disk with Numbers」と説明されています。録音には、数詞、複数桁の数字、金額表現、録音者を示す発話が含まれます。資料上、ベル自身の声を含む録音として扱われており、チチェスター・ベルは立会人として記録されています。
| Title | Artist | Matrix | Catalog No. |
|---|---|---|---|
| Disk with Numbers | Alexander Graham Bell |
【1885年4月15日の出来事】
・フォート・ピットの包囲と撤退
1885年4月14日–15日、現在のカナダにあたる地域のフォート・ピット(Fort Pitt)では、北西抵抗(North-West Resistance)の一環として、クリー(Cree)の集団と北西騎馬警察(North-West Mounted Police)をめぐる衝突・包囲が起こりました。北西騎馬警察側はフォート・ピットからバトルフォード(Battleford)へ撤退しました。ヴォルタ研究所でベルの声を含む実験録音が作成された同じ日、カナダ西部では植民地政府、先住民社会、警察組織をめぐる対立が深まっていました。
1885年頃
ヴォルタ研究所の資料番号287655は、1885年に作成されたワックス塗布紙板ディスクの録音資料です。ディスクには2本の独立したトラックがあり、中心付近の刻字には「Killarney」と「Hot Shot March」が示されています。録音日を4月中旬頃に限定する根拠は確認できないため、ここでは1885年の録音資料として扱います。演奏者・発話者は確認されていません。
| Title | Artist | Matrix | Catalog No. |
|---|---|---|---|
| Killarney | N/A | ||
| Hot Shot March | N/A |
【1885年の出来事】
・専売特許条例の公布
1885年4月18日、日本では専売特許条例(Patent Monopoly Act)が公布され、日本の特許制度が始まりました。ヴォルタ研究所で録音媒体や再生方式の実験が進められていた同じ年、日本では発明を制度的に保護する仕組みが整えられ、技術と産業をめぐる近代的な法制度が形づくられていきました。
春–夏頃
1885年春–夏頃、ヴォルタ研究所では、紙帯状媒体を用いる録音・再生方式も検討されていました。資料番号287760は、幅約4.4ミリのテープを2個のリールに巻いた媒体で、ワックス混合物を塗布した紙帯を使う構想に関係します。ただし、確認可能な部分には録音が見つかっていないため、録音リストには入れません。この紙帯状媒体は、チチェスター・ベルとテインターが1885年6月27日に出願したアメリカ合衆国特許第341,214号とも関係し、ヴォルタ研究所がワックス塗布シリンダーだけでなく、紙帯、ディスク、シリンダーを含む複数の媒体形式を検討していたことを示しています。
1886年
1886年は、ヴォルタ研究所の録音実験がグラフォフォンとして制度化・事業化へ進んだ年です。チチェスター・ベルとテインターによるアメリカ合衆国特許第341,214号は、1886年5月4日に成立し、ワックス面に音の振動を切削して記録・再生する方法を示しました。同年にはヴォルタ・グラフォフォン社(Volta Graphophone Company)が形成され、録音装置は研究室内の実験から、業務用ディクテーション機器としての実用化へ向かいました。また、1886年1月15日の日付を持つ実験ディスクや、1886年頃のグラフォフォン・シリンダーも確認されており、以下の項目で個別に扱います。
この年の確認されている録音:4曲
1月15日
ヴォルタ研究所の資料番号287819は、32枚の小型ディスク群です。このうち、1886年1月15日の日付を持つ資料として、287819 [2] と 287819 [3] が確認できます。どちらも薄い紙板上に黄色ワックス組成を載せたディスクで、慣性録音器(Inertia Recorder)を用いた実験に関係します。資料裏面には「AGB」の記載がありますが、録音された声や発話者を確定する根拠としては扱いません。録音内容は確認されていないため、ここでは資料上の記載に基づく識別名で扱います。
| Title | Artist | Matrix | Catalog No. |
|---|---|---|---|
| Experiment with Inertia Recorder | N/A | ||
| Attempt to use Inertia Recorder | N/A |
【1886年1月15日の出来事】
・『バンクーバー・ウィークリー・ヘラルド・アンド・ノース・パシフィック・ニュース』創刊号の発行
1886年1月15日、ブリティッシュコロンビア州バンクーバー(Vancouver, British Columbia)で『バンクーバー・ウィークリー・ヘラルド・アンド・ノース・パシフィック・ニュース(The Vancouver Weekly Herald and North Pacific News)』の創刊号が発行されました。バンクーバーは当時まだ市制施行前で、グランビル(Granville)と呼ばれていた地域から新しい都市へ移行する時期にありました。ヴォルタ研究所で小型ディスクを使った録音実験が行われていた同じ日、北米西岸では新しい都市社会の形成を伝える地域新聞が発行されていました。
1886年頃
ヴォルタ研究所の資料番号287653は、1886年頃のグラフォフォン・シリンダー(graphophone cylinder)群です。このうち、287653 [2] と 287653 [3] は録音済みのシリンダーとして確認できます。どちらも紙管を芯にし、表面にワックス組成を塗布したシリンダーで、グラフォフォンの実用化へ向かう時期の実験資料です。録音内容と発話者は確認されていません。
| Title | Artist | Matrix | Catalog No. |
|---|---|---|---|
| Untitled | N/A | ||
| Untitled | N/A |
【1886年の出来事】
・自由の女神像の除幕
1886年10月28日、ニューヨーク港(New York Harbor)で自由の女神像(Liberty Enlightening the World)が公式に公開されました。ヴォルタ研究所の録音実験がグラフォフォンとして実用化へ向かっていた同じ年、アメリカ合衆国では新しい国家的記念物が公開され、19世紀後半の技術、都市、記念文化を象徴する出来事となりました。
References
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https://www.nps.gov/edis/learn/historyculture/origins-of-sound-recording.htm - History of the Cylinder Phonograph / Library of Congress
https://www.loc.gov/collections/edison-company-motion-pictures-and-sound-recordings/articles-and-essays/history-of-edison-sound-recordings/history-of-the-cylinder-phonograph/ - Congress of Berlin / Encyclopaedia Britannica
https://www.britannica.com/event/Congress-of-Berlin - 国会開設の勅諭 / 国立公文書館
https://www.archives.go.jp/ayumi/kobetsu/m14_1881_01.html - 内閣制度の概要 / 首相官邸
https://www.kantei.go.jp/jp/seido/ - Berlin West Africa Conference / Encyclopaedia Britannica
https://www.britannica.com/event/Berlin-West-Africa-Conference - National Recording Registry 2020 Inductions / Library of Congress
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https://www.firstsounds.org/research/merr.php - Charles Batchelor’s 1878 Phonautogram / First Sounds
https://www.firstsounds.org/sounds/batchelor.php - Experimental Talking Clock / Tinfoil.com
https://www.tinfoil.com/cm-0101.htm - Frank Lambert’s Talking Clock / University of Pennsylvania
https://writing.upenn.edu/bernstein/syllabi/readings/lambert.html - How Cleopatra’s Needle Came to London / London Museum
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https://www.ccaaa.org/pages/Joint-Technical-Symposium/JTS-2010.html - Fonograf / Store norske leksikon
https://snl.no/fonograf - Sir Joseph Swan: A Light That Never Goes Out / Newcastle University Special Collections
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