1893年4月に録音された音楽
1893年4月は、翌月に開幕するシカゴ万国博覧会(World’s Columbian Exposition)を前に、電気・通信・娯楽を含む近代産業の展示が「見世物」から「体系」へ移りつつあった時期です。ヨーロッパではベルギー総罷業(Belgian general strike of 1893)が12日–18日に発生し、参政権拡大(男性普通選挙を含む改革)をめぐる社会運動が政治制度を直接に動かしました。アメリカ合衆国では、アメリカ合衆国海軍(United States Navy)が4月1日にChief Petty Officerの階級を設け、制度面の整備が進みます。同月6日には末日聖徒イエス・キリスト教会(The Church of Jesus Christ of Latter-day Saints)のソルトレーク神殿(Salt Lake Temple)が奉献され、19世紀後半から続いた大型建設の節目となりました。日本では4月1日に横川–軽井沢間でアプト式鉄道が開通し、山岳地の輸送を支える技術導入が具体化します。
この月の確認されている録音:0曲
1893年4月の録音に関する情報のまとめ
1893年4月の録音文化は、業界誌が「博覧会」と「業務用途」の双方を視野に、フォノグラフ展示や運用を語っている点に特徴があります。とくにシカゴ万国博覧会(World’s Columbian Exposition)関連の報告では、電気展示の一部としてフォノグラフや関連装置が言及され、来場者体験(コイン投入式を含む)と技術展示が結び付けられていました。一方で、当月に「いつ・どこで・何が」録音されたかを日付単位で確定できる一次的な録音ログは、今回の参照範囲では十分に確認できませんでした。
フォノグラフ業界誌が伝える「シカゴ万国博覧会」の展示(フォノグラフ/キネトグラフ/コイン投入式)
フォノグラフ産業の業界誌『ザ・フォノグラム(The Phonogram)』の1893年3月–4月合併号では、シカゴ万国博覧会(World’s Columbian Exposition)の電気館(Electricity Building)における展示説明の中で、フォノグラフや、音と映像を結び付ける装置としてのキネトグラフ(Kinetograph)に触れる記述が見られます。また同説明には、電気館内部にコイン投入式フォノグラフが置かれていたことを示す紹介も含まれます。これらは「録音そのもの」よりも、1893年春の段階でフォノグラフが大規模博覧会の来場者体験として位置付けられていたことを示します。
- https://archive.org/details/Phonogram3_3-4
- https://phonographia.com/Fairs/1893%20WCE%20ELECBLD.htm
- https://en.wikipedia.org/wiki/World%27s_Columbian_Exposition
『ザ・フォノグラム』1893年3月–4月合併号が示す録音制作と運用の論点
『ザ・フォノグラム(The Phonogram)』1893年3月–4月合併号(編集:ビルジニア・H・マクレー(Virginia H. McRae, 生没年不明))の目次には、「How Musical Records are Made」「Improvements in Phonograph Records」など、録音制作とレコード改良を正面から扱う項目が並びます。さらに、コイン投入式機器の実務として「Directions for Adjusting “Wright” Action for Operating Phonograph in Nickel-in-the-Slot Cases」も掲げられ、記録(録る)と流通・興行(聴かせる)が同じ現場課題として結び付いていたことがわかります。
『ザ・フォノグラム』掲載の「コロンビア」関連記事(1893年春の業界内での位置づけ)
同時期のフォノグラフ産業では、会社・拠点ごとの活動が業界誌記事として整理され、流通や録音人材の話題と結び付けて語られていました。ティム・ブルックス(Tim Brooks, 生没年不明)によるコロンビア関連史の整理では、『ザ・フォノグラム(The Phonogram)』1893年4月の紙面にコロンビアに関する特集記事が掲載されていた旨が示され、1893年春に同社が業界内で注目される存在だったことがうかがえます。
