1912年7月に録音された音楽
1913年7月は、軍事・外交・社会の各面で緊張と象徴的出来事が並んだ月です。バルカン半島では第二次バルカン戦争(Second Balkan War)が激化し、7月11日にルーマニア軍がブルガリア領へ進軍、7月12日にはオスマン帝国軍もトラキアへ入り、7月30日に休戦が成立しました。いっぽう、7月1日–9日にはハーグで第二次国際阿片会議(Second International Opium Conference)が開かれ、阿片取引規制の国際協定形成が進みました。アメリカ合衆国では1913年のゲティスバーグ戦場50周年再会集会(50th Anniversary of the Battle of Gettysburg reunion)が開かれ、南北戦争の退役軍人が再び戦場に集いましたが、この再会は全白人の催しでもありました。さらに7月10日にはカリフォルニア州のグリーンランド牧場(Greenland Ranch)で134華氏度(56.7℃)が観測され、のちに世界気象機関でも史上最高の地上気温として扱われました。南米では7月23日、ブラジルが1897年米伯引渡条約(Extradition Treaty of 1897 between the United States and Brazil)を終了させ、外交実務にも変化が生じました。
この月の確認されている録音:0曲
1912年7月の録音に関する情報のまとめ
現時点で1912年7月の当月一次資料として最も具体的に確認できるのは、『エジソン・フォノグラフ・マンスリー』1912年7月号です。この号では、新規アーティスト紹介、各国楽団を比較して聴かせる企画、エドウィン・ブース(Edwin Booth, 生没年不明)の旧録音再生実験、アンベローラIIIの販促、9月向け国内新譜予告、そして英国・ドイツ・フランス・スペイン・イタリア向け外国盤の7月分追加がまとめて扱われており、少なくともエジソン系企業については、1912年7月の動きを月単位でかなり具体的に追えます。なお、今回確認した当月資料では、エジソン系以外の主要会社について同じ密度で7月の活動を裏づける一次資料までは確認できませんでした。
エジソン
トーマス・A・エジソン社(Thomas A. Edison, Inc.)については、1912年7月号に最も多くの具体的情報が載っています。新規アーティストとしてハリエット・ボーデン(Harriet Bawden, 生没年不明)、キャスリーン・パーロウ(Kathleen Parlow, 生没年不明)、ポール・デュフォール(Paul Dufault, 生没年不明)、ジェンナーロ・パスクァリエッロ(Gennaro Pasquariello, 生没年不明)、ヒュー・アラン(Hugh Allan, 生没年不明)が紹介され、同号の国内新譜欄では9月向け新譜としてキャスリーン・パーロウ(Kathleen Parlow, 生没年不明)の初登場録音 28026 が告知されています。また一般アンベロール欄にも、ヒュー・アラン(Hugh Allan, 生没年不明)の 1105 など、1912年7月付で掲載された新規番号が確認できます。さらに同号は、エドウィン・ブース(Edwin Booth, 生没年不明)の旧録音をウィリアム・ヘンリー・アイブズ(William Henry Ives, 生没年不明)が再生し、新しい複製盤用原音として使えるか試したものの、音声は明瞭でも複製に必要な音量には足りなかったと伝えています。販促面ではアンベローラIIIの広告素材供給が始まっており、1912年7月時点で同機の販売強化が進められていたことも確認できます。
- https://www.worldradiohistory.com/Archive-All-Audio/Edison-Phonograph/Edison-Phonograph-Monthly-1912-Vol-10.pdf
- https://archive.org/details/edisonphonograph10moor
ナショナル・フォノグラフ
ナショナル・フォノグラフ社(National Phonograph Co., Ltd.)は、1912年7月号の誌面上でロンドン拠点として確認でき、同号「Foreign Records for July, 1912」には英国盤の7月追加として、アンベロール 12456–12465 とスタンダード 14153–14155 が並んでいます。ここにはスタンリー・カークビー(Stanley Kirkby, 生没年不明)、フローリー・フォード(Florrie Forde, 生没年不明)、ナショナル・ミリタリー・バンド(National Military Band)などが含まれており、1912年7月の時点で英国市場向けの新規供給が継続していたことがわかります。さらに同号の国別比較鑑賞企画でも、英国側の代表例としてナショナル・ミリタリー・バンド(National Military Band)が挙げられており、販売だけでなく教育的・比較鑑賞的な見せ方も重視していたことが読み取れます。
- https://www.worldradiohistory.com/Archive-All-Audio/Edison-Phonograph/Edison-Phonograph-Monthly-1912-Vol-10.pdf
- https://archive.org/details/edisonphonograph10moor
エジソン・ゲゼルシャフト
エジソン・ゲゼルシャフト(Edison Gesellschaft, M. B. H.)は、1912年7月号の誌面でベルリン拠点として確認でき、同号の外国盤欄ではドイツ向けとしてアンベロール 15247–15250 とスタンダード 16245–16248 が掲載されています。演奏者としてはヨハン・シュトラウス管弦楽団(Johann Strauss Orchester)、パウル・ゼーバッハ(Paul Seebach, 生没年不明)、ルーデ・ベルナルド(Lude Bernardo, 生没年不明)とエーリヒ・シュレーター(Erich Schroeter, 生没年不明)らが確認でき、少なくとも1912年7月の誌面ではドイツ市場向けの新規タイトル供給が続いていました。また同号の比較鑑賞企画ではドイツ代表例として「国王の擲弾兵行進曲」が挙げられており、ドイツ盤が国民音楽・行進曲イメージの一部として位置づけられていたこともわかります。
コンパニー・フランセーズ・デュ・フォノグラフ・エジソン
コンパニー・フランセーズ・デュ・フォノグラフ・エジソン(Compagnie Française du Phonographe Edison)は、1912年7月号の誌面でパリ拠点として確認できます。今回確認できた同月の具体的な新譜情報は多くありませんが、少なくとも「Foreign Records for July, 1912」にはフランス語盤スタンダード 18202「La Veuve Joyeuse—Heure exquise, valse」が掲載されており、1912年7月の段階でフランス市場向け供給が続いていたことは確実です。また同号の比較鑑賞企画でも、フランス側の代表例としてフランス共和国親衛軍楽隊(Garde Républicaine Band)が挙げられており、エジソン系がフランス盤を単なる輸出商品ではなく、国別音楽比較の一部として見せていたことが確認できます。
- https://www.worldradiohistory.com/Archive-All-Audio/Edison-Phonograph/Edison-Phonograph-Monthly-1912-Vol-10.pdf
- https://archive.org/details/edisonphonograph10moor
