1913年3月に録音された音楽
1913年3月は、政治・社会・文化の各分野で転換点が重なった月でした。アメリカ合衆国では3月3日にワシントンで大規模な女性参政権行進が行われ、翌3月4日にはウッドロウ・ウィルソン(Woodrow Wilson, 1856–1924)が大統領に就任しました。3月10日には地下鉄道で知られるハリエット・タブマン(Harriet Tubman, 1822年頃–1913)が死去し、アメリカ合衆国の奴隷制廃止運動史を象徴する一時代が閉じました。オーストラリアでは3月12日、将来の首都キャンベラ(Canberra)が公式に命名されました。ニューヨークでは国際近代美術展覧会(International Exhibition of Modern Art)が3月15日まで開かれ、近代美術への強い反響を広げました。さらに3月23日–27日にはアメリカ合衆国中西部で1913年の大洪水が発生し、都市機能と交通網に深刻な被害を与えました。ヨーロッパ南東部では3月26日、第一次バルカン戦争のなかでアドリアノープル(Adrianople、現エディルネ)が陥落し、戦局が大きく動きました。
この月の確認されている録音:0曲
1913年3月の録音に関する情報のまとめ
1913年3月の録音関連事項として、現時点で確実に確認できるのは、トーマス・A・エジソン社(Thomas A. Edison, Inc.)がこの月の業界向け資料で新型シリンダー機を告知し、シリンダー機種カタログを更新し、ホーム・レコーディング施策を強め、同月発売のブルー・アンベロール(Blue Amberol)を整理していたことです。なお、同じ1913年3月号に載る「第六次ブルー・アンベロール・リスト」は4月出荷予定の告知であり、1913年3月発売分そのものとは分けて扱う必要があります。
アンベローラV
1913年3月号の『エジソン・フォノグラフ・マンスリー(The Edison Phonograph Monthly)』では、エジソン・アンベローラV(Amberola V)が新機種として告知されました。本文では、この機種は約2年にわたる音響研究の成果とされ、隠しホーン式を採用し、マホガニーまたはゴールデンオーク仕上げ、寸法は高さ16 1/4インチ・幅16 1/2インチ・奥行22インチ、アメリカ合衆国での定価は80ドル、カナダでは100ドルと説明されています。標準ではダイヤモンド式リプロデューサーModel Bを備え、ブルー・アンベロール専用ですが、サファイア式を用いれば蝋管も再生可能とされていました。
新しいシリンダー機種カタログ
同じ1913年3月号では、新しいシリンダー機種カタログ Form 2305 の発行も告知されました。サイズは5×8インチ、全32ページで、14種類の室内場面に各機種を配置する構成が採られ、エジソン・アンベローラV(Amberola V)とエジソン・アンベローラVI(Amberola VI)の小型隠しホーン機も強調されています。さらに本文によれば、残りのページではホーム・レコーディング用品、シリンダー用レコード・アルバム、各種リプロデューサー、ホーンなどの付属品も案内されていました。
ホーム・レコーディング施策の強化
1913年3月号は、ホーム・レコーディングを強く販促している点でも重要です。本文では、4分用レコーダーとホーム用シェービング機によって家庭録音がより容易になったと説明され、さらにAmberola I、Amberola III、Concert、School Phonograph向けにModel Lサファイア・リプロデューサーを特価で供給する方針も示されました。これにより、ブルー・アンベロールだけでなく、蝋管や自家製記録も使えることが販売上の利点として打ち出されていました。
1913年3月発売のブルー・アンベロール
アラン・サットン(Allan Sutton)のディスコグラフィでは、1913年3月発売分のブルー・アンベロールは番号1626–1650に整理されています。また、この月のリストから番号順の発行方式が採用されたことも明記されています。3月発売分には、1626「Patriotic Songs of America — Medley」、1633「Rock of Ages」、1636「Mattinata」、1638「Belle of New York March / Second Regiment Connecticut National Guard March」などが含まれていました。
第六次ブルー・アンベロール・リストの告知
1913年3月号では、第六次ブルー・アンベロール・リストも告知されています。ただし、これは同月発売分ではなく、資料本文上は1913年4月中旬ごろにジョバーへ出荷される予定の新規リストです。確認できる収録例としては、1711「Manhattan Beach and El Capitan Marches」、1715「I Will Sing of My Redeemer」、1720「Wearing of the Green」、1725「Flanagan’s Irish Jubilee」などがあり、当時の販促上、宗教曲・愛国曲・アイルランド色の強い曲目・喜劇的演目が並行して扱われていたことがわかります。
- https://archive.org/details/edisonphonograph11moor
- https://adp-assets.library.ucsb.edu/edison_4m-cyls.pdf
