1930年8月に録音された音楽
1930年8月は、世界恐慌の深まりが政治、統計、交通、競技大会に具体的に現れた月でした。カナダでは保守党政権が成立し、リチャード・ベッドフォード・ベネット(Richard Bedford Bennett, 1870–1947)が1930年8月7日に首相へ就任しました。アメリカ合衆国ではアメリカ合衆国国勢調査局(United States Census Bureau)が1930年8月8日に1930年国勢調査の速報人口を公表しました。航空では飛行船R100(R100)が1930年8月1日にセント・ユベールへ到着しました。スポーツでは第1回イギリス帝国競技大会(British Empire Games)が1930年8月16日–23日にハミルトンで開催され、後のコモンウェルス競技大会の出発点となりました。さらにカナダでは1930年8月14日の枢密院令PC 1930-1957(Order in Council PC 1930-1957)によって移民受入れがさらに制限され、不況の影響が国家政策にも及んでいました。
この月の確認されている録音:0曲
1930年8月の録音に関する情報のまとめ
1930年8月の同時代業界誌を見ると、この月の録音業界は、高価格の歌劇・管弦楽盤、映画連動盤、ダンス盤、廉価盤、長時間盤を同時に動かしていました。1930年8月2日号では、デッカ・レコード社(The Decca Record Co., Ltd.)の8月新譜、ドミニオン・グラモフォン・レコード社(Dominion Gramophone Records, Ltd.)の新補遺、エジソン・ベル社(Edison Bell, Ltd.)のラジオ(Radio)第26リスト、グラモフォン社(The Gramophone Co., Ltd.)のヒズ・マスターズ・ヴォイス(His Master’s Voice)8月報、キース・プラウズ社(Keith Prowse & Co., Ltd.)扱いのポリドール(Polydor)8月発売盤が並びました。月後半の1930年8月23日号では、パーロフォン(Parlophone)の映画盤、ヴォカリオン・グラモフォン社(The Vocalion Gramophone Co., Ltd.)のブロードキャスト・トゥエルヴ(Broadcast Twelve)補遺、蓄音機会社や販売会社の新製品と販促策も確認できます。
デッカ
デッカ・レコード社(The Decca Record Co., Ltd.)は、1930年8月の新譜で、12インチ黒ラベルにK 527–8「ヴォータンズ・フェアウェル(Wotan’s Farewell)」を置き、これをグリンプシズ・オブ・ザ・グレート・オペラス(Glimpses of the Great Operas)シリーズの第1弾としました。これは『ワルキューレ』(Die Walküre)終幕場面の抜粋です。あわせてK 529に『詩人と農夫』(Dichter und Bauer / Poet and Peasant)序曲、10インチ青ラベルにはF 1816「クラシックス・オブ・ジャズ(Classics of Jazz)」シリーズ、F 1844『キング・オブ・ジャズ』(King of Jazz)関連曲を出しており、歌劇、序曲、ジャズ再編曲、映画連動盤を同月に併走させていました。
ドミニオン
ドミニオン・グラモフォン・レコード社(Dominion Gramophone Records, Ltd.)は、1930年8月の新補遺で、C 322に「ショウド・アイ?(Should I?)」と「プッティン・オン・ザ・リッツ(Puttin’ on the Ritz)」、C 323に「フィガロ(Figaro)」と「ハッピー・フィート(Happy Feet)」、C 324に「イマジネーション・ゴーズ・ア・ロング・ロング・ウェイ(Imagination Goes a Long, Long Way)」と「ソング・オブ・ザ・ドーン(Song of the Dawn)」、C 325に「コングラチュレイションズ(Congratulations)」と「ザ・ウーマン・イン・ザ・シュー(The Woman in the Shoe)」を並べていました。さらに同月、リーズ支店閉鎖後もデイヴィス社が北部向けに全掲載番号の迅速供給を続けると告知されており、発売補遺と卸流通の両方が維持されていました。
ヒズ・マスターズ・ヴォイス
グラモフォン社(The Gramophone Co., Ltd.)のヒズ・マスターズ・ヴォイス(His Master’s Voice)は、1930年8月2日号でD 1796『謝肉祭』(Carnaval / Carneval)序曲、E 555ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト(Wolfgang Amadeus Mozart, 1756–1791)歌曲とグスタフ・マーラー(Gustav Mahler, 1860–1911)歌曲、E 556ジョン・フィリップ・スーザ(John Philip Sousa, 1854–1932)行進曲を載せていました。さらに1930年8月23日号では、DA 1104エリカ・モリーニ(Erica Morini, 1904–1995)の小品集、DA 1114ティト・スキーパ(Tito Schipa, 1888–1965)のトスティ歌曲、D 1840–2ロベルト・シューマン(Robert Schumann, 1810–1856)の『謝肉祭』(Carnaval, Op. 9)管弦楽版など、月半ばの追加盤も確認できます。1930年8月の同ブランドは、歌劇、歌曲、器楽独奏、管弦楽を継続的に補充していました。
- https://www.worldradiohistory.com/UK/Wireless-Trader/Wireless-Trader-1930-08-02.pdf
- https://worldradiohistory.com/UK/Wireless-Trader/Wireless-Trader-1930-08-23.pdf
エジソン・ベル
エジソン・ベル社(Edison Bell, Ltd.)は、ラジオ(Radio)8インチ盤の第26リストで、980に「ボニー・バンクス・オブ・ロッホ・ローモンド(Bonnie Banks of Loch Lomond)」と「アニー・ローリー(Annie Laurie)」、1353に「ブロンディ(Blondy)」と「クライイン・フォー・ザ・キャロラインズ(Cryin’ for the Carolines)」を出していました。後者は映画『マリアンヌ』(Marianne)公開に合わせた盤として論評されており、伝統的歌曲と映画連動の流行曲を廉価帯で併置していたことが分かります。
ポリドール
キース・プラウズ社(Keith Prowse & Co., Ltd.)扱いのポリドール(Polydor)は、1930年8月の発売盤として、27178『こうもり』(Die Fledermaus)序曲、27185『タンホイザー』(Tannhäuser)大行進曲と『ローエングリン』(Lohengrin)第3幕前奏曲、27187『椿姫』(La Traviata)幻想曲、27190『カルメン』(Carmen)第1幕導入部および第2幕・第3幕導入部、27191『カルメン』(Carmen)第4幕導入部および第2幕バレエ音楽を出していました。作品名はいずれも原資料で確認できる正式題名で、歌劇・管弦楽曲を中心に組んだ月次補充でした。加えて10インチ盤23118ではタンゴも扱っており、クラシック系と舞曲系を並行していました。
パーロフォン
パーロフォン(Parlophone)は、1930年8月23日号でK 723を紹介されていました。内容は映画『嘆きの天使』(Der blaue Engel / The Blue Angel)から「フォーリング・イン・ラヴ・アゲイン(Falling in Love Again)」と「ブロンド・ウィメン(Blonde Women)」で、ベルリンのオットー・フリッツ・アンド・ヒズ・シンコペイターズ(Otto Fritz and his Syncopators)による原盤録音とされています。映画人気をそのままレコード販売へ接続する商品でした。
ブロードキャスト・トゥエルヴ
ヴォカリオン・グラモフォン社(The Vocalion Gramophone Co., Ltd.)のブロードキャスト・トゥエルヴ(Broadcast Twelve)は、1930年8月23日号で9月補遺が一括して論評されていました。51735にはカミーユ・サン=サーンス(Camille Saint-Saëns, 1835–1921)の『ピアノ協奏曲第2番ト短調』(Pianoforte Concerto No. 2 in G Minor, Op. 22)が収められ、続く盤にはアーサー・ヴィヴィアン(Arthur Vivian)の歌曲、フェリックス・メンデルスゾーン(Felix Mendelssohn, 1809–1847)の《Hear My Prayer》、ウェールズ近衛連隊軍楽隊による描写的楽曲などが並んでいました。低価格の10インチ長時間盤で協奏曲、歌曲、合唱曲、軍楽を扱っていた点に、このシリーズの特色があります。
ダルチェット・ポリフォン
ダルチェット・ポリフォン社(Dulcetto-Polyphon, Ltd.)は、1930年8月中に全国各地でストックルームを開設し、最新の無線機器と蓄音機器を展示すると告知していました。会場はベルファスト、プリマス、ニューカッスル、サウサンプトン、エディンバラ、シェフィールド、ボーンマス、ノッティンガム、リーズ、ブリストル、アバディーン、サウスシー、ハンリーで、1930年8月4日–29日にかけて巡回する日程でした。記事では新型「ダルチェット」蓄音機870、790なども紹介されており、月内の販促活動が広域に行われていました。1930年8月23日号の前付広告でも、同社はロンドン、グラスゴー、マンチェスターの拠点を掲げていました。
- https://www.worldradiohistory.com/UK/Wireless-Trader/Wireless-Trader-1930-08-02.pdf
- https://worldradiohistory.com/UK/Wireless-Trader/Wireless-Trader-1930-08-23.pdf
アイトニア
アイトニア・グラモフォンズ社(Itonia Gramophones, Ltd.)は、1930年8月23日号で1931年向け新型蓄音機を公表していました。新機種は自動解放・停止機構「モトスタット(Motostat)」を備えたポータブル機A、B、C、Dのほか、ペデスタル型100、107、コンソール型108–118まで多岐にわたり、秋商戦前の機種拡充がこの月にはっきり現れていました。
ケアンズ・モリソン
ケアンズ・モリソン社(Cairns Morrison Co., Ltd.)は、1930年8月23日号で、通常の蓄音機と真空管増幅器に接続して家庭で簡易電気録音を行える附属装置を近く発売すると伝えられていました。構成はトラッキング装置、スタイラス、両面ブランク盤6枚で、同社はパーシー街のスタジオで廉価の録音サービスも行っていました。録音を販売サービスと家庭利用の両方へ広げようとする動きが、この月に確認できます。
ジョンソン・トーキング・マシン
ジョンソン・トーキング・マシン社(Johnson Talking Machine Co.)は、1930年8月23日号で、自社蓄音機のハーフトーン版下を小売店へ無償供給し、カタログや地方新聞広告に使えるようにすると告知していました。新譜発売そのものではありませんが、蓄音機販売を支える地方販促策として、1930年8月の具体的な営業活動が確認できます。
