1930年12月に録音された音楽

この記事は約10分で読めます。
スポンサーリンク

1930年12月に録音された音楽

1930年12月は、世界恐慌の深まりが政治、金融、農業、文化の各分野に同時に現れた月でした。12月2日、ハーバート・フーヴァー(Herbert Hoover, 1874–1964)は年頭教書で、恐慌の主要因が合衆国外部にもあると述べ、アジアの政治的動揺、南アメリカの革命、ヨーロッパの不安定化、さらに合衆国内の深刻な旱魃被害にも触れました。ロンドンでは第1回円卓会議(First Round Table Conference)が続き、12月8日のイギリス議会でも、インドの地位や中央政府の構想、連邦制の可否が強い関心事として論じられていました。12月10日のノーベル賞授与では、チャンドラセカラ・ベンカタ・ラマン(Sir Chandrasekhara Venkata Raman, 1888–1970)が物理学賞、シンクレア・ルイス(Sinclair Lewis, 1885–1951)が文学賞、ナータン・セーデルブロム(Nathan Söderblom, 1866–1931)が平和賞を受けました。翌12月11日には、ニューヨーク市のバンク・オブ・ザ・ユナイテッド・ステーツ(Bank of the United States)が破綻し、金融不安はさらに拡大しました。さらに12月20日、フーヴァーは緊急建設資金法案と旱魃救済関連の立法に署名し、景気後退と農業危機に対する連邦対応を強めました。

この月の確認されている録音:0曲

1930年12月の録音に関する情報のまとめ

1930年12月の録音業界では、レコード会社、蓄音機会社、映写音響会社、家庭録音装置メーカー、コイン作動式機器メーカーが、年末商戦と1931年向け新製品投入を並行して進めていました。とくにこの月の業界誌では、アールシーエー・ヴィクター社(RCA Victor Company, Inc.)の販売再編と遠隔操作付き機種、コロムビア・フォノグラフ社(Columbia Phonograph Company, Inc.)の新型ラジオ蓄音機複合機、ブランズウィック・ラジオ社(Brunswick Radio Corp.)の海外レコード生産拡張と新型電池式機、ミルズ・ノヴェルティ社(Mills Novelty Co.)とデカ=ディスク・フォノグラフ社(Deca-Disc Phonograph Co.)の自動式蓄音機、プレスト・マシン・プロダクツ社(Presto Machine Products Co.)とペイセント・リプロデューサー社(Pacent Reproducer Corp.)の家庭用録音・再生装置、さらにヴィクター・アニマトグラフ社(Victor Animatograph Corp.)、ベル・アンド・ハウエル社(Bell & Howell Co.)、カードン=フォノクラフト社(Cardon-Phono-craft Corp.)の映写・音響複合機や大型自動交換式機が確認できます。1930年末の市場では、新譜販売だけでなく、家庭録音、ラジオとの複合化、自動選曲、連続再生、公共空間向け自動機の改良が、録音関連産業の主要な競争軸になっていました。

アールシーエー・ヴィクター

アールシーエー・ヴィクター社(RCA Victor Company, Inc.)では、1930年12月1日付で販売活動全体の再編が行われ、Radiola、Victor、Engineering Products の各部門を横断する統括体制が整えられました。同月の『Radio Retailing』では、Radiola 82 と Radiola 86 に6局選択式の遠隔操作装置が追加され、年末販売用の主要機種については家庭録音、遠隔操作、自動選局、音色調整が前面に出されていました。レコード面でも、Victor Album M-83 と Victor 22512 が歳末向けの有力商品として誌面で推奨されており、同社が12月時点で再生機販売とレコード販売を一体で押し出していたことがわかります。

コロムビア

コロムビア・フォノグラフ社(Columbia Phonograph Company, Inc.)は、1930年12月号の『RADIO』で No. 939 と No. 991 の新型ラジオ蓄音機複合機を発表しました。No. 939 は電気蓄音機とラジオの複合機、No. 991 はこれに自動レコード交換機構を加えた上位機で、12月の時点で明確に新機種として告知されています。同月の『Radio Retailing』では、Columbia Masterworks 146、Columbia 67814-D、Columbia 2309-D が年末向け推奨盤として扱われており、同社が12月にクラシック盤、ダンス盤、複合再生機を並行して訴求していたことが確認できます。

ブランズウィック

ブランズウィック・ラジオ社(Brunswick Radio Corp.)は、1930年12月号の『RADIO』で、旧クリフトフォン・レコード社(Cliftofone Record Company)の工場を引き継いでイギリス市場へ進出し、年産500万枚規模のレコード製造体制を整えたと報じられています。同じく『Radio Retailing』では、新しい2ボルト管とエアセル電池を用いる低ボーイ型の新型機が紹介されており、同社がこの月に海外レコード生産と新型再生機の両方を拡張していたことがわかります。レコード面でも、Brunswick Album No. 22 と Brunswick 4948 が年末向け商材として取り上げられていました。

ミルズ・ノヴェルティ

ミルズ・ノヴェルティ社(Mills Novelty Co.)は、1930年12月号の『Radio Retailing』で、新しい複数硬貨対応スロットを全新型 “Troubadour” 自動式蓄音機に搭載したと紹介されています。この装置はニッケル、ダイム、クォーターに対応し、ニッケルで1曲、ダイムで2曲という使い方ができるよう設計されていました。1930年12月の同社は、単なる自動式蓄音機の供給だけでなく、硬貨投入行動を増やす装置改良を販売上の強みとして訴えていました。

デカ=ディスク

デカ=ディスク・フォノグラフ社(Deca-Disc Phonograph Co.)は、1930年12月号の『Radio Retailing』で、Model 29 “Creatone” 自動式蓄音機を紹介されています。この機種は、回転中に文字が順に点灯する照明装置を正面に備えていました。同誌はさらに、同社がそれ以前から自動式蓄音機を製造してきたものの、この時点で新たにコイン作動式分野へ参入し、Model 15-C、Model 24、Model 175 の3機種を投入したと記しています。1930年12月には、公共空間向け自動式蓄音機市場がなお新規参入を受け入れる段階にあったことがわかります。

プレスト

プレスト・マシン・プロダクツ社(Presto Machine Products Co.)は、1930年12月号の『Radio Retailing』で、家庭用録音装置を紹介しています。この装置はラジオ受信機と電動蓄音機ターンテーブルに接続でき、ラジオ録音、個人録音、通常再生を切り替えられる構造でした。録音媒体にはエマーソン=ワズワース基本特許による金属円盤を用い、手持ちマイクロホン付きで販売されていました。1930年12月には、家庭で放送や自分の声を録音すること自体が、現実的な販売商材として成立していたことが確認できます。

ペイセント

ペイセント・リプロデューサー社(Pacent Reproducer Corp.)は、1930年12月号の『Radio Retailing』で、“Electrovox” 電動ターンテーブル兼ピックアップ装置を紹介されています。この装置は “Master Phonovox” ピックアップを用い、一般的なラジオ受信機を蓄音機複合機へ転用できる仕組みでした。自動停止機構、切替スイッチ、音量調整を備え、キャビネット付き完成品だけでなく、モーターとターンテーブル単体でも提供されていました。ラジオ受信機を蓄音機化する後付け市場が、1930年12月の時点で明確に形成されていたことを示しています。

ヴィクター・アニマトグラフ

ヴィクター・アニマトグラフ社(Victor Animatograph Corp.)は、1930年12月号の『Radio Retailing』で、Model 6 projector と “Animatophone” を紹介されています。ここではターンテーブルを垂直配置した新設計、33 1/3回転盤と78回転盤の双方への対応、空気調速機による速度安定、既存の Victor projector model 3 または 3B を Model 5 に改造して使用できることなどが説明されていました。1930年12月には、映写と音の同期再生をともなう装置も録音関連機器市場の一部として活発に動いていました。

ベル・アンド・ハウエル

ベル・アンド・ハウエル社(Bell & Howell Co.)は、1930年12月号の『Radio Retailing』で、“Filmo-phone-Radio” を発表しました。これは16ミリ映写機、ラジオ、蓄音機、トーキー用途を組み合わせた複合機で、12月15日納入予定とされていました。普通の蓄音機レコード用速度と、トーキー用33 1/3回転の双方に対応し、無声映写にラジオや蓄音機伴奏を組み合わせる運用も想定されていました。家庭娯楽機器の領域で、映像と録音の統合が実用品として売られていたことを示す事例です。

カードン=フォノクラフト

カードン=フォノクラフト社(Cardon-Phono-craft Corp.)は、1930年12月号の『Radio Retailing』で、“Sparks Ensemble Model 101” を発表しました。この機種は15枚連続再生に対応し、レコード交換に要する時間は11秒とされ、10インチ盤と12インチ盤の双方を扱うことができました。電気増幅式の磁気ピックアップ、三段構成のパワーアンプ、12球式 Sparton ラジオを備え、さらにコインスロット取付にも対応していました。大型施設向けの高級自動交換式再生機が、1930年12月の時点で具体的な商品として存在していたことが確認できます。