1932年2月に録音された音楽
1932年2月は、国際連盟の軍備縮小会議(Conference for the Reduction and Limitation of Armaments)が2日にジュネーブで開幕し、第一次世界大戦後の国際秩序を立て直すための本格的な軍備制限交渉が始まりました。東アジアでは日本軍が4日に哈爾浜へ進入し、満洲事変後の軍事的緊張がさらに拡大しました。アメリカ合衆国ニューヨーク州レークプラシッドでは第3回冬季オリンピック大会(III Olympic Winter Games)が2月4日–15日に開かれ、17か国252人が参加しました。科学面ではジェームズ・チャドウィック(James Chadwick, 1891–1974)が2月27日付の『ネイチャー』(Nature)に中性子の存在を示す論文を発表し、原子核研究を大きく前進させました。アメリカ合衆国では2月22日にジョージ・ワシントン(George Washington, 1732–1799)生誕200周年記念行事が公式に始まり、同日にはパープル・ハート章(Purple Heart)も復活しました。
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1932年2月の録音に関する情報のまとめ
1932年2月の録音業界は、新譜の流通だけでなく、33 1/3回転の長時間再生、自動レコード交換機、ラジオ・フォノグラフ一体機の実用化が同時に進んでいたことを、当月の『ラジオ・リテーリング』(Radio Retailing)と『ワイヤレス・マガジン』(Wireless Magazine)から確認できます。アメリカ合衆国側ではアールシーエー・ヴィクター社(RCA Victor Company, Inc.)、ストロンバーグ=カールソン社(Stromberg-Carlson Telephone Manufacturing Co.)、スパークス=ウィジントン社(Sparks-Withington Company)、ケープハート社(Capehart Corporation)、ゼネラル・インダストリーズ社(General Industries Co.)が再生機器や長時間再生対応で動いていました。イギリス側ではコロムビア・グラフォフォン社(Columbia Graphophone Co., Ltd.)と、グラモフォン社(The Gramophone Co., Ltd.)のヒズ・マスターズ・ヴォイス(His Master’s Voice)およびゾノフォン(Zonophone)が、ラジオグラモフォン、自動交換機、新譜の三方面で活動していました。加えて『ザ・ニューヨーカー』(The New Yorker)1932年2月6日号は、コロムビア(Columbia)、ヴィクター(Victor)、ブランズウィック(Brunswick)、オーケー(Okeh)、ヒズ・マスターズ・ヴォイス(His Master’s Voice)、デッカ(Decca)の現行盤を横断的に紹介しており、当月の実売盤の流れも確認できます。
RCAヴィクター
1932年2月号の『ラジオ・リテーリング』(Radio Retailing)は、アールシーエー・ヴィクター社(RCA Victor Company, Inc.)にアールシーエー・フォトフォン社(RCA Photophone, Inc.)を統合したと報じ、この再編が音響再生機器導入の弾みになると説明しています。同号は、1月15日の取締役会でJ・R・マクドノー(J. R. McDonough, 生没年不明)が社長に選ばれたことも伝えています。さらに『ザ・ニューヨーカー』(The New Yorker)1932年2月6日号は、ヴィクター(Victor)が廉価な長時間再生用付属装置をまもなく市場に出し、長時間再生用のポピュラー音楽カタログを録音中だと書いており、当月の同社が会社再編と長時間再生対応を並行して進めていたことが分かります。
- https://www.worldradiohistory.com/Archive-Radio-Retailing/30s/Radio-Retailing-1932-02.pdf
- https://www.newyorker.com/magazine/1932/02/06/popular-records
米国コロムビア
『ザ・ニューヨーカー』(The New Yorker)1932年2月6日号は、コロムビア(Columbia)の現行盤として Columbia 2578-D、Columbia 2571-D、Columbia 2575-D を取り上げています。これは同月の時点で、コロムビア(Columbia)が新譜または現行主力盤の流通を維持し、ダンス音楽市場の一角を占めていたことを示します。
ブランズウィック
『ザ・ニューヨーカー』(The New Yorker)1932年2月6日号は、ブランズウィック(Brunswick)6211 と 6181 を同月の注目盤として挙げ、ドン・レッドマン・アンド・ヒズ・オーケストラとハーマン・ウォルドマン・アンド・ヒズ・オーケストラの盤を現行盤として扱っています。少なくとも同月の一般向け市場では、ブランズウィック(Brunswick)がポピュラー音楽とダンス音楽の新譜供給を続けていたことが確認できます。
オーケー
『ザ・ニューヨーカー』(The New Yorker)1932年2月6日号は、オーケー(Okeh)41542 と 41534 を同月の推奨盤に挙げています。クローヴァーデール・カントリー・クラブ・オーケストラとルイ・アームストロング・アンド・ヒズ・オーケストラの盤が並んでおり、オーケー(Okeh)が1932年2月の時点でダンス音楽とジャズ寄りの市場に継続的に盤を供給していたことが読み取れます。
英国コロムビア
1932年2月号の『ワイヤレス・マガジン』(Wireless Magazine)は、コロムビア・グラフォフォン社(Columbia Graphophone Co., Ltd.)の新しい自動レコード交換機を、ラジオグラモフォン Model 604 の標準装備として紹介しています。記事では、この装置が最大8枚までの10インチ盤・12インチ盤を扱え、交換間隔は約8秒で、価格は47ギニーだと説明されています。加えて同号は、コロムビア・グラフォフォン社(Columbia Graphophone Co., Ltd.)の新しい可搬型機とコンソール機も紹介しており、同社が当月に再生機器の販促を強めていたことが確認できます。レコード欄では Columbia DB687 などの盤も掲載されており、機器販売と盤販売が並行して動いていました。
ヒズ・マスターズ・ヴォイス
1932年2月号の『ワイヤレス・マガジン』(Wireless Magazine)では、グラモフォン社(The Gramophone Co., Ltd.)のヒズ・マスターズ・ヴォイス(His Master’s Voice)Model 435 が、同社最初の純ラジオ機として紹介されています。さらに同号のグラモ・ラジオ欄では、ヒズ・マスターズ・ヴォイス(His Master’s Voice)の自動交換式デスク型機や、H.M.V. DB1501、B8828、D1986、D1987、DA1231、C2287 などの盤が紹介されており、当月の同ブランドが受信機、自動交換再生、高価格帯レコードのすべてで存在感を示していたことが分かります。
ゾノフォン
1932年2月号の『ワイヤレス・マガジン』(Wireless Magazine)では、グラモフォン社(The Gramophone Co., Ltd.)がゾノフォン(Zonophone)名義で三球式組立受信機、ピックアップ、蓄電池を広告し、ラジオとレコードを結ぶ製品群として訴求していました。加えてレコード欄では、ZONO 5985、ZONO 5975、ZONO 6000、ZONO 6002、ZONO 6005、ZONO 6006、ZONO 5982、ZONO 6008 などが掲載され、低価格帯の歌謡盤と軽音楽盤を継続供給していたことも確認できます。ゾノフォン(Zonophone)は当月、再生機器の廉価市場と廉価盤市場の双方を支えるブランドとして機能していました。
デッカ
『ザ・ニューヨーカー』(The New Yorker)1932年2月6日号は、輸入盤としてデッカ(Decca)F2672 を紹介し、ジャック・ヒルトン・アンド・ヒズ・オーケストラの盤を現行の推奨盤に含めています。英米市場をまたぐ一般誌のこの扱いから、デッカ(Decca)の盤が1932年2月時点でアメリカ合衆国のレコード愛好家にとっても輸入盤として流通していたことが確認できます。
ストロンバーグ=カールソン
1932年2月号の『ラジオ・リテーリング』(Radio Retailing)によれば、ストロンバーグ=カールソン社(Stromberg-Carlson Telephone Manufacturing Co.)は、300ドルから660ドルのテレクター型受信機を展開し、その中に複数枚のレコードを自動再生できる電気式ラジオ・フォノグラフ一体機「マルチ・レコード・ラジオ」も含めていました。広告では、押しボタン式の操作装置によって離れた場所からラジオとレコードの操作ができる点が強調されており、当月の同社が単体受信機ではなく、遠隔操作機能と自動レコード再生を備えた家庭用音響設備を市場に出していたことが確認できます。
スパートン
1932年2月号の『ラジオ・リテーリング』(Radio Retailing)には、スパークス=ウィジントン社(Sparks-Withington Company)がスパートン(Sparton)の名称で Model 30 のラジオ・フォノグラフ一体機、Model 30A の長時間再生用付属装置付きラジオ・フォノグラフ一体機、さらに上位の高級型ラジオ・フォノグラフ一体機を価格付きで掲げている広告が掲載されています。Model 30 は235ドル、Model 30A は248ドルで、長時間再生対応が明示されています。広告は、スパークス=ウィジントン社(Sparks-Withington Company)が1932年2月の時点で、ラジオとレコード再生を組み合わせた中価格帯商品を長時間再生対応とともに販売していたことを示しています。
ケープハート
1932年2月号の『ラジオ・リテーリング』(Radio Retailing)は、ケープハート社(Capehart Corporation)の Capehart 400 を、自動フォノグラフと十三球式高級スーパーへテロダイン受信機を組み合わせた高級機として掲載しています。この記事によれば、この機種は78回転盤と33 1/3回転の長時間再生盤の両方に対応し、3枚から22枚までの10インチ盤・12インチ盤を混載で自動処理できました。同号のショー報告でも、ケープハート社(Capehart Corporation)の自動交換機が二速度化されたことが紹介されており、当月の同社が高級自動交換市場で先行していたことが分かります。
ゼネラル・インダストリーズ
1932年2月号の『ラジオ・リテーリング』(Radio Retailing)には、ゼネラル・インダストリーズ社(General Industries Co.)のフォノグラフ用モーター「Model D Green Flyer」が掲載され、33 1/3回転盤と78回転盤の両方に対応することが明記されています。同じ広告では、二速度式の Green Flyer motor が15ドルで提供され、長時間再生盤と通常盤をレバー操作で切り替えられるとされており、当月の市場で長時間再生対応部品の実売体制が動いていたことを示しています。
