1934年3月に録音された音楽
1934年3月は、政治・社会・文化・軍事の各分野で性格の異なる出来事が重なった月でした。3月3日にはジョン・ハーバート・ディリンジャー(John Herbert Dillinger, 1903–1934)がインディアナ州クラウンポイントのレイク郡刑務所から脱走し、大恐慌期の治安不安を象徴する事件となりました。16日にはロサンゼルスのアンバサダー・ホテルで第6回アカデミー賞(The 6th Academy Awards)が開かれ、映画産業の存在感がさらに高まりました。22日には第1回オーガスタ・ナショナル招待競技会(Augusta National Invitation Tournament)が始まり、後のマスターズ・トーナメント(Masters Tournament)の起点となりました。24日にはフランクリン・デラノ・ルーズベルト(Franklin Delano Roosevelt, 1882–1945)がフィリピン独立法(Philippine Independence Act)に署名し、フィリピン独立への十年の移行過程が制度化されました。27日にはヴィンソン=トランメル法(Vinson-Trammell Act)が成立してアメリカ合衆国海軍の建艦拡張が認められ、31日には民間土木事業局(Civil Works Administration)が終了し、ニューディールの緊急雇用政策も次の段階へ移りました。
この月の確認されている録音:0曲
1934年3月の録音に関する情報のまとめ
1934年3月の同時代業界資料から直接確認できる範囲では、アール・シー・エー・ヴィクター社(RCA Victor Co., Inc.)、コロムビア・フォノグラフ社(Columbia Phonograph Company)、ブランズウィック・レコード(Brunswick Records)の動きが特に明瞭です。3月号の業界誌は、当月の売れ筋盤をブランズウィック・レコード、アール・シー・エー・ヴィクター社、コロムビア・フォノグラフ社の3系統でまとめると同時に、ブランズウィック・レコードとコロムビア・フォノグラフ社が新しい広帯域録音設備を導入し、アール・シー・エー・ヴィクター社の研究所も録音改善を継続していると記しました。さらに3月3日付の放送誌は、コロムビア・フォノグラフ社が放送音声を直接ディスク化する実験を進め、外来雑音の低減にも成果を上げていると報じています。3月の資料上では、廉価盤、クラシック用シリーズ、ラジオ・フォノグラフ一体機、新譜の即時回転が同時並行で進んでいました。
アール・シー・エー・ヴィクター
アール・シー・エー・ヴィクター社(RCA Victor Co., Inc.)は、3月号の小売業界誌で Duo Model 301 と Duo Model 380 を告知しており、Duo Model 301 は卓上型のラジオ・フォノグラフ一体機、Duo Model 380 は自動レコード交換装置を備えたコンソール型として扱われていました。Duo Model 380 は標準盤と長時間盤の双方に対応する機種として紹介されており、同月の機械販売面でアール・シー・エー・ヴィクター社がラジオとレコードの統合商品を前面に出していたことがわかります。
同じ3月号の「THE HITS FOR MARCH」では、ポール・ホワイトマン・アンド・ヒズ・オーケストラ(Paul Whiteman and His Orchestra)の Victor 24505、イシャム・ジョーンズ・アンド・ヒズ・オーケストラ(Isham Jones and His Orchestra)の Victor 24496、ラモナ・アンド・ハー・グランド・ピアノ(Ramona and Her Grand Piano)の Victor 24520 が当月有力盤として挙げられていました。さらに3月20日付の『Variety』の2月売れ筋集計では、ハリー・ソスニック・アンド・ヒズ・オーケストラ(Harry Sosnik and His Orchestra)の “Carioca”、ルディ・ヴァリー・アンド・ヒズ・コネチカット・ヤンキーズ(Rudy Vallée and his Connecticut Yankees)の “Flying Down to Rio” と “Orchids in the Moonlight”、レイ・ノーブル・アンド・ヒズ・オーケストラ(Ray Noble and his Orchestra)、エディ・デューチン・アンド・ヒズ・オーケストラ(Eddy Duchin and his Orchestra)、デューク・エリントン・アンド・ヒズ・オーケストラ(Duke Ellington and his Orchestra)などの盤が地域別上位に入り、同月のヴィクター盤が実際の小売現場で強く動いていたことも確認できます。
- https://www.worldradiohistory.com/Archive-Radio-Retailing/30s/Radio-Retailing-1934-03.pdf
- https://archive.org/stream/variety113-1934-03/variety113-1934-03_djvu.txt
ブルーバード
ブルーバード・レコード(Bluebird Records)は、同じ3月号のアール・シー・エー・ヴィクター社広告で「fastest selling low-priced records」として明示されていました。1934年3月時点で、アール・シー・エー・ヴィクター社が廉価盤ラインを独立した販売上の武器として押し出していたことを示す資料です。ヴィクター本体の高価格帯・中価格帯商品だけでなく、廉価盤レーベルも同月の販促対象に入っていました。
ヴィクター・レッド・シール
ヴィクター・レッド・シール(Victor Red Seal)は、3月号の業界誌で当月だけで36枚、そのうち31枚が2ドル級、5枚が1.50ドル級と整理されており、クラシック部門の供給量がかなり大きかったことがわかります。とくに3月の目玉として、リヒャルト・シュトラウス(Richard Strauss, 1864–1949)の《Der Rosenkavalier》13枚組セットが挙げられており、クラシックの大型アルバム販売を同月に強く押していたことが確認できます。
この月のクラシック部門では、ヴィクトル・レッド・シールの大規模な新譜供給に加えて、イェフディ・メニューイン(Yehudi Menuhin, 1916–1999)の録音が「Record-of-the-Month」として推されていました。1934年3月のヴィクターは、流行歌盤だけでなく、クラシック部門でも明確な商品展開を行っていました。
コロムビア
コロムビア・フォノグラフ社(Columbia Phonograph Company)については、3月3日付の放送誌が、放送音声をそのまま新しいディスクへ移す実験が進んでおり、外来雑音を抑える技術的改善も進行中であると報じています。これは当月資料で直接確認できる技術面の動きとして重要です。3月号の小売業界誌も、コロムビア・フォノグラフ社が新しい広帯域録音設備を導入したと述べており、同社が同月に録音品質改善を強く意識していたことがわかります。
商品面では、同誌の「THE HITS FOR MARCH」で、エンリク・マドリゲラ・アンド・ヒズ・オーケストラ(Enric Madriguera and his Orchestra)の Columbia 2885、エミル・コールマン・アンド・ヒズ・オーケストラ(Emil Coleman and his Orchestra)の Columbia 2894D、リトル・ジャック・リトル・アンド・ヒズ・オーケストラ(Little Jack Little and his Orchestra)の Columbia 2895D が当月有力盤として挙げられていました。さらに同じ記事は、ベニー・グッドマン・アンド・ヒズ・オーケストラ(Benny Goodman and his Orchestra)の Columbia 2892D、エンリク・マドリゲラ・アンド・ヒズ・オーケストラ(Enric Madriguera and his Orchestra)の Columbia 2890D、ベニー・カーター・アンド・ヒズ・オーケストラ(Benny Carter and his Orchestra)の Columbia 2898D を、録音の新しさと結びつけて具体的に紹介しています。
3月20日付の『Variety』の2月売れ筋集計でも、ベニー・グッドマン・アンド・ヒズ・オーケストラ(Benny Goodman and his Orchestra)、エンリク・マドリゲラ・アンド・ヒズ・オーケストラ(Enric Madriguera and his Orchestra)、エミル・コールマン・アンド・ヒズ・オーケストラ(Emil Coleman and his Orchestra)、ベン・ポラック・アンド・ヒズ・オーケストラ(Ben Pollack and his Orchestra)、ジョージ・オルセン・アンド・ヒズ・オーケストラ(George Olsen and his Orchestra)の盤が上位に現れており、技術改善と商品流通の両面で同社の動きが確認できます。
- https://www.worldradiohistory.com/Archive-Radio-Guide/1934/Radio-Guide-1934-03-03.pdf
- https://www.worldradiohistory.com/Archive-Radio-Retailing/30s/Radio-Retailing-1934-03.pdf
- https://archive.org/stream/variety113-1934-03/variety113-1934-03_djvu.txt
コロムビアのセレブリティ/マスターワークス
コロムビア・フォノグラフ社(Columbia Phonograph Company)のクラシック系シリーズも、1934年3月には独立して動いていました。3月号の業界誌は、同社の3月新譜としてセレブリティ・シリーズ(Celebrity series)とマスターワークス・シリーズ(Masterworks series)に計12枚の新譜があると記しており、流行歌盤だけでなくクラシック部門でも月次供給が続いていたことがわかります。
同じ記事では、ヨーゼフ・シゲティ(Joseph Szigeti, 1892–1973)のメンデルスゾーン録音や、モーツァルト作品のセットも売れるクラシック盤として扱われていました。1934年3月のコロムビアは、ダンス音楽や映画歌曲だけでなく、クラシックの中価格帯・高価格帯商品でも店頭回転を期待していたことが読み取れます。
ブランズウィック
ブランズウィック・レコード(Brunswick Records)も、3月号の小売業界誌で当月の主力盤が具体的に示されています。「THE HITS FOR MARCH」では、レオ・レイスマン・アンド・ヒズ・オーケストラ(Leo Reisman and his Orchestra)の Brunswick 6742、ヴィクター・ヤング・アンド・ヒズ・オーケストラ(Victor Young and his Orchestra)の Brunswick 6741、コニー・ボズウェル(Connee Boswell, 1907–1976)の Brunswick 6754 が有力盤として列挙されていました。記事本文は、ブランズウィック・レコードが新しい広帯域録音設備を導入したとも述べており、同社も同月の録音改善競争に加わっていたことが確認できます。
また同誌は、ニューヨークの『World-Telegram』の人気投票で、ガイ・ロンバード(Guy Lombardo, 1902–1977)、ルース・エッティング(Ruth Etting, 1896–1978)、ビング・クロスビー(Bing Crosby, 1903–1977)、ボズウェル・シスターズ(Boswell Sisters)が各部門首位となったことを受け、ボズウェル・シスターズ(Boswell Sisters)の当時の最新盤を積極的に売るよう促していました。3月20日付の『Variety』の2月売れ筋集計でも、ジミー・デュランテ(Jimmy Durante, 1893–1980)、ヴィクター・ヤング・アンド・ヒズ・オーケストラ(Victor Young and his Orchestra)、テッド・フィオ・リト・アンド・ヒズ・オーケストラ(Ted Fio Rito and his Orchestra)、バート・アンブローズ・アンド・ヒズ・オーケストラ(Bert Ambrose and his Orchestra)、ガイ・ロンバード・アンド・ヒズ・ロイヤル・カナディアンズ(Guy Lombardo and his Royal Canadians)、ウェイン・キング・アンド・ヒズ・オーケストラ(Wayne King and his Orchestra)、カサ・ロマ・オーケストラ(Casa Loma Orchestra)、ボズウェル・シスターズ(Boswell Sisters)、フレディ・マーティン・アンド・ヒズ・オーケストラ(Freddy Martin and his Orchestra)、ガス・アーンハイム・アンド・ヒズ・オーケストラ(Gus Arnheim and his Orchestra)、ハル・ケンプ・アンド・ヒズ・オーケストラ(Hal Kemp and his Orchestra)、エイブ・ライマン・アンド・ヒズ・オーケストラ(Abe Lyman and his Orchestra)の盤が並んでおり、流行歌とダンス楽団盤の両面で強い回転が確認できます。
- https://www.worldradiohistory.com/Archive-Radio-Retailing/30s/Radio-Retailing-1934-03.pdf
- https://archive.org/stream/variety113-1934-03/variety113-1934-03_djvu.txt
