1935年11月に録音された音楽
1935年11月、国際政治では、イタリア王国(Kingdom of Italy)によるエチオピア帝国(Ethiopian Empire)侵攻を受けて、国際連盟(League of Nations)の対伊制裁が継続し、集団安全保障の限界があらためて露呈しました。イギリスでは11月14日の総選挙で、スタンリー・ボールドウィン(Stanley Baldwin, 1867–1947)を首班とする国民政府(National Government)が勝利しました。アメリカ合衆国では11月、ジョン・L・ルイス(John L. Lewis, 1880–1969)らが産業別組織委員会(Committee for Industrial Organization)を立ち上げ、大量生産産業の労働組織化が新しい局面に入りました。11月15日にはフィリピン・コモンウェルス(Commonwealth of the Philippines)が発足し、マヌエル・ルイス・ケソン(Manuel Luis Quezon, 1878–1944)が大統領、セルヒオ・オスメニャ(Sergio Osmeña, 1878–1961)が副大統領に就任しました。科学技術の面では11月11日、高高度気球エクスプローラーII号(Explorer II)が72,395フィートに到達し、アルバート・W・スティーヴンス(Albert W. Stevens, 1886–1949)とオーヴィル・A・アンダーソン(Orvil A. Anderson, 1895–1965)が成層圏観測の新記録を樹立しました。ギリシャ王国(Kingdom of Greece)では11月の国民投票を経て、ジョージ2世(George II, 1890–1947)の復位が進みました。
この月の確認されている録音:0曲
1935年11月の録音に関する情報のまとめ
1935年11月の録音市場では、舞台作品と映画音楽をいかに素早く売場へ結び付けるかが主要各社の共通課題でした。『ラジオ・リテーリング』(Radio Retailing)1935年11月号は、ジョージ・ガーシュウィン(George Gershwin, 1898–1937)の《ポーギー・アンド・ベス》(Porgy and Bess)と、コール・ポーター(Cole Porter, 1891–1964)の『ジュビリー』(Jubilee)を当月の中核的な販売材料として扱っています。加えて、年末直前の『ラジオ・トゥデイ』(Radio Today)1935年12月号からは、各社が単に新譜を出すだけでなく、劇場話題、歌手の知名度、年末商戦を組み合わせて需要を拡大していたことが読み取れます。1935年11月の同時代資料上で活動を明確に確認できる中核企業は、アールシーエー・マニュファクチャリング社(RCA Manufacturing Co., Inc.)のヴィクター(Victor)、ブランズウィック・レコード社(Brunswick Record Corp.)のブランズウィック(Brunswick)、コロムビア・フォノグラフ社(Columbia Phonograph Co.)のコロムビア(Columbia)、デッカ・ディストリビューティング社(Decca Distributing Co.)のデッカ(Decca)です。
ヴィクター
アールシーエー・マニュファクチャリング社(RCA Manufacturing Co., Inc.)のヴィクター(Victor)は、1935年11月の同時代資料で、舞台・映画・高級商品を一体で訴求していたことが確認できます。『ラジオ・リテーリング』(Radio Retailing)11月号は、《ポーギー・アンド・ベス》(Porgy and Bess)について、ローレンス・ティベット(Lawrence Tibbett, 1896–1960)とヘレン・ジェプソン(Helen Jepson, 1904–1997)の盤を近く発表すると予告し、『ジュビリー』(Jubilee)ではポール・ホワイトマン・アンド・ヒズ・オーケストラ(Paul Whiteman and his Orchestra)のメドレー盤を前面に出していました。さらに同誌は、映画『ブロードウェイ・メロディー1936』(Broadway Melody of 1936)と映画『ヒアズ・トゥ・ロマンス』(Here’s to Romance)に結び付く商品、キルステン・フラグスタート(Kirsten Flagstad, 1895–1962)の初ヴィクター盤、そして高価格帯の《Library of Recorded Music》までを同じ販促文脈に置いています。11月のヴィクターは、話題作品の即応盤だけでなく、著名歌手と高級セットで店頭の格を上げる販売戦略を取っていました。
- https://www.worldradiohistory.com/Archive-Radio-Retailing/30s/Radio-Retailing-1935-11.pdf
- https://www.worldradiohistory.com/Archive-Radio-Today/30s/Radio-Today-1935-12.pdf
- https://www.newyorker.com/magazine/1935/11/09/popular-records
ブランズウィック
ブランズウィック・レコード社(Brunswick Record Corp.)のブランズウィック(Brunswick)は、1935年11月には舞台作品との連動とダンス・バンド盤の回転を並行して進めていました。『ラジオ・リテーリング』(Radio Retailing)11月号は、『ジュビリー』(Jubilee)の主要曲がブランズウィックでも揃うことを明記しており、同社をヴィクターやデッカと並ぶ供給元として扱っています。さらに『ラジオ・トゥデイ』(Radio Today)1935年12月号では、レオ・ライスマン・アンド・ヒズ・オーケストラ(Leo Reisman and his Orchestra)の Brunswick 7562 を《ポーギー・アンド・ベス》(Porgy and Bess)関連の売れ筋として掲げ、同時にフレディ・マーティン・アンド・ヒズ・オーケストラ(Freddy Martin and his Orchestra)やテディ・ウィルソン・アンド・ヒズ・オーケストラ(Teddy Wilson and his Orchestra)の盤も挙げていました。11月のブランズウィックは、舞台連動の話題盤を足場にしつつ、ダンス向け商品の厚みで売場を維持していたとみられます。
- https://www.worldradiohistory.com/Archive-Radio-Retailing/30s/Radio-Retailing-1935-11.pdf
- https://www.worldradiohistory.com/Archive-Radio-Today/30s/Radio-Today-1935-12.pdf
- https://www.newyorker.com/magazine/1935/11/09/popular-records
コロムビア
コロムビア・フォノグラフ社(Columbia Phonograph Co.)のコロムビア(Columbia)は、1935年11月の確認可能な資料では、舞台作品よりもダンス・バンド盤と歌手盤で存在感を示しています。『ザ・ニューヨーカー』(The New Yorker)1935年11月9日号は、ミルズ・ブルー・リズム・バンド(Mills Blue Rhythm Band)の Columbia 3087-D「Ride, Red, Ride」「Congo Caravan」を推奨盤として挙げ、同時にジャック・ルナール・アンド・ヒズ・オーケストラ(Jacques Renard and his Orchestra)の Columbia 3086-D も紹介しています。また同記事は、ティノ・ロッシ(Tino Rossi, 1907–1983)の Columbia 4110-M にも触れており、コロムビアがスウィング色の強い商品と、より広い歌謡市場へ向けた商品を併置していたことがわかります。『ラジオ・トゥデイ』(Radio Today)1935年12月号の業界一覧でも、コロムビア・フォノグラフ社(Columbia Phonograph Co.)は独立した主要会社として掲載されており、1935年末時点の販売市場で確かな位置を占めていました。
- https://www.newyorker.com/magazine/1935/11/09/popular-records
- https://www.worldradiohistory.com/Archive-Radio-Today/30s/Radio-Today-1935-12.pdf
デッカ
デッカ・ディストリビューティング社(Decca Distributing Co.)のデッカ(Decca)は、1935年11月の資料では、流行曲への即応力と話題歌手の活用が目立ちます。『ラジオ・リテーリング』(Radio Retailing)11月号は、『ジュビリー』(Jubilee)の主要曲がデッカでも揃うと記し、同社を流行曲供給の有力会社として位置付けています。『ザ・ニューヨーカー』(The New Yorker)1935年11月9日号は、ルイ・アームストロング・アンド・オーケストラ(Louis Armstrong and Orchestra)の Decca 579 と Decca 580、フレッチャー・ヘンダーソン・アンド・ヒズ・オーケストラ(Fletcher Henderson and his Orchestra)の Decca 555、ジミー・ドーシー・アンド・ヒズ・オーケストラ(Jimmy Dorsey and his Orchestra)の Decca 571 を取り上げています。さらに『ラジオ・トゥデイ』(Radio Today)1935年12月号では、ガイ・ロンバード・アンド・ヒズ・ロイヤル・カナディアンズ(Guy Lombardo and his Royal Canadians)やボズウェル・シスターズ(The Boswell Sisters)の盤も年末商材として示されており、デッカが1935年11月から年末にかけて、映画・舞台由来の話題と人気歌手・人気楽団を結び付けながら売場を拡張していたことが確認できます。
- https://www.worldradiohistory.com/Archive-Radio-Retailing/30s/Radio-Retailing-1935-11.pdf
- https://www.newyorker.com/magazine/1935/11/09/popular-records
- https://www.worldradiohistory.com/Archive-Radio-Today/30s/Radio-Today-1935-12.pdf
