1938年5月に録音された音楽
1938年5月は、欧州の緊張、アジアの戦争、米州の国内政治、米国の軍備拡張、娯楽文化が同時に動いた月です。5月3日、アドルフ・ヒトラー(Adolf Hitler, 1889–1945)はイタリア王国(Kingdom of Italy)を訪問し、ベニート・ムッソリーニ(Benito Mussolini, 1883–1945)との会見はドイツ国(German Reich)とイタリア王国(Kingdom of Italy)の接近を示しました。中欧では五月危機(May Crisis)が高まり、チェコスロヴァキア共和国(Czechoslovak Republic)は5月20日に部分動員へ進みました。日中戦争(Second Sino-Japanese War)では徐州会戦(Battle of Xuzhou)が5月に進み、日本軍が徐州を占領しました。ブラジル合衆国(United States of Brazil)では5月11日、ブラジル・インテグラリスタ行動(Ação Integralista Brasileira)によるインテグラリスタ蜂起(Integralist Uprising)が起きました。アメリカ合衆国(United States of America)では5月17日に海軍法1938年(Naval Act of 1938)が成立し、5月26日に下院非米活動特別委員会(Special Committee on Un-American Activities, House of Representatives)が設置されました。文化面では5月14日にワーナー・ブラザース映画社(Warner Bros. Pictures, Inc.)の『ロビンフッドの冒険(The Adventures of Robin Hood)』が公開され、5月30日には第26回500マイル国際懸賞レース(26th 500 Mile International Sweepstakes Race)でフロイド・ロバーツ(Floyd Roberts, 1900–1939)が優勝しました。
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1938年5月の録音に関する情報のまとめ
1938年5月の録音関連市場では、SPレコードの販売促進、レコード・プレーヤーの家庭向け実演販売、海外配給の再編、録音機材とマイクロフォンの展開が同じ業界誌上に並んでいました。ラジオ・トゥデイ(Radio Today)1938年5月号は「The Record Month」として、公共音響で使用されるレコードの制限表示、ラジオ修理訪問時のレコード・プレーヤー実演販売、ブランズウィック・レコード社(Brunswick Record Corp.)とアメリカン・レコード社(American Record Corporation)の海外配給変更、各社の新譜推薦を扱っています。個別録音では、デッカ・レコード社(Decca Records, Inc.)のチック・ウェッブ・アンド・ヒズ・オーケストラ(Chick Webb and His Orchestra)による1938年5月2日・5月3日の録音が確認できます。
アールシーエー・マニュファクチャリング
アールシーエー・マニュファクチャリング社(RCA Manufacturing Co., Inc.)は、1938年5月の録音関連市場で、レコード再生機器とヴィクター・レコード(Victor Records)の販売促進を並行して展開していました。ラジオ・トゥデイ(Radio Today)1938年5月号は、同社のR94-B型レコード・プレーヤーを掲載し、クリスタル・ピックアップ、トゥルー・トラッキングのピックアップ・アーム、セルフスタート式定速モーター、10インチ盤・12インチ盤対応の大型ターンテーブルを備え、定価32.50ドルとしています。同じ号は、修理担当者がサービス訪問時に小型のアールシーエー製レコード・プレーヤーを持参し、修理済みラジオ受信機へ接続してレコードを実演する販売方法も紹介しています。さらに、ヴィクター・レコード(Victor Records)の新しい販売促進小冊子「In the Groove with Victor Records」が、スウィング・バンドとメンバー情報を扱い、販売店を通じてスウィング音楽ファンへ配布される資料として掲載されています。
ブランズウィック・レコード/アメリカン・レコード
ブランズウィック・レコード社(Brunswick Record Corp.)とアメリカン・レコード社(American Record Corporation)は、1938年5月時点で海外配給の再編を進めていました。ラジオ・トゥデイ(Radio Today)1938年5月号は、1938年7月1日からエレクトリカル・アンド・ミュージカル・インダストリーズ社(Electrical & Musical Industries, Ltd.)が、英国諸島および南北アメリカを除く世界地域で、ブランズウィック・レコード社(Brunswick Record Corp.)とアメリカン・レコード社(American Record Corporation)の全録音の海外配給を扱うと報じています。ロンドンのデッカ・レコード社(Decca Record Co., Ltd.)との配給契約は1938年6月に終了予定とされ、同記事はこの変更をブランズウィック・レコード社(Brunswick Record Corp.)の海外展開の一部として伝えています。同じ号の推薦欄には、エメリー・ドイチュ・アンド・ヒズ・オーケストラ(Emery Deutsch and His Orchestra)のBrunswick 8109も掲載され、海外配給再編と新譜販売が同じ時期に進んでいたことが分かります。
- https://archive.org/stream/radiotoday04unse/radiotoday04unse_djvu.txt
- https://www.worldradiohistory.com/Archive-All-Music/Billboard/30s/1938/BB-1938-05-14.pdf
デッカ・レコード
デッカ・レコード社(Decca Records, Inc.)は、1938年5月に映画関連曲、ダンス音楽、スウィング系録音を販売面で前面に出していました。ラジオ・トゥデイ(Radio Today)1938年5月号の推薦欄には、ロイ・スメック・アンド・ヒズ・セレナーダーズ(Roy Smeck and His Serenaders)による20世紀フォックス映画社(Twentieth Century-Fox Film Corporation)の映画『ハッピー・ランディング(Happy Landing)』関連曲としてDecca 1739が掲載されています。アメリカ歴史的録音ディスコグラフィー(Discography of American Historical Recordings)では、チック・ウェッブ(Chick Webb, 1905–1939)率いるチック・ウェッブ・アンド・ヒズ・オーケストラ(Chick Webb and His Orchestra)が、1938年5月2日にエラ・フィッツジェラルド(Ella Fitzgerald, 1917–1996)の歌唱を含む「A-Tisket, A-Tasket」を録音し、Decca 1840として扱われたことが確認できます。また、同じ1938年5月3日には「Liza (All The Clouds’ll Roll Away)」の録音も確認されます。
- https://archive.org/stream/radiotoday04unse/radiotoday04unse_djvu.txt
- https://adp.library.ucsb.edu/index.php/objects/detail/382229/Decca-9-25434
ソノラ・ラジオ・アンド・テレビジョン
ソノラ・ラジオ・アンド・テレビジョン社(Sonora Radio & Television Corp.)は、1938年5月時点でラジオ受信機市場を中心に、音楽再生ブランドとしての販売網拡大を進めていました。ラジオ・トゥデイ(Radio Today)1938年5月号の広告では、同社が「1914年以来、音楽再生の世界における主要名」として自社名を示し、未整備地域の販売代理店を募集しています。同号の製品紹介欄では、1939年型の初期製品として、7管式交流卓上スーパーへテロダイン受信機、5管式交流・直流両用プラスチック成型卓上機、4管式交流・直流両用「Teeny-Weeny」型が紹介されています。1938年5月の同社は、旧来の蓄音機ブランドの系譜を残しながら、レコードそのものではなくラジオ受信機と音楽再生機器の販売体制を強化していました。
シカゴ・サウンド・システムズ
シカゴ・サウンド・システムズ社(Chicago Sound Systems Co.)は、ラジオ・トゥデイ(Radio Today)1938年5月号の製品紹介欄で、家庭用・携帯用の電気式蓄音機を掲載されています。同機は3管式アンプ、クリスタル・ピックアップ、セルフスタート式モーター、ダイナミック・スピーカーを備え、10インチ盤と12インチ盤を78回転で再生する機器として、定価35ドルで紹介されています。アールシーエー・マニュファクチャリング社(RCA Manufacturing Co., Inc.)のR94-B型レコード・プレーヤーと同じ誌面に掲載されており、1938年5月の市場で、ラジオ受信機に接続するプレーヤーだけでなく、アンプとスピーカーを内蔵した電気式蓄音機も小売対象になっていたことを示しています。
ユニバーサル・マイクロフォン
ユニバーサル・マイクロフォン社(Universal Microphone Co., Ltd.)は、1938年5月の録音関連機材市場で、マイクロフォンと録音機を扱う企業として確認できます。ラジオ・トゥデイ(Radio Today)1938年5月号は、同社の航空機用単一ボタン式カーボン・マイクロフォンを掲載し、手持ち式、押しボタン式スイッチ、シールド・ケーブル、総重量8オンスの機器として紹介しています。同社は同年の誌面で、ワックス盤およびインスタントaneous disc向けの録音機、ブランク・ディスク、針、スタイラス、付属品も広告しており、1938年5月の録音関連市場が、商業レコード会社だけでなく、学校、公共音響、特殊用途の録音・集音機材へ広がっていたことを示しています。
