1943年7月に録音された音楽
1943年7月は、第二次世界大戦(World War II)の戦局と戦時体制が大きく動いた月です。5日、ドイツ軍のツィタデレ作戦(Operation Citadel)によってクルスクの戦い(Battle of Kursk)が始まり、東部戦線でドイツ側の大規模攻勢は失敗に向かいました。9日–10日には連合国軍のハスキー作戦(Operation Husky)としてシチリア島侵攻が始まり、25日にはイタリア王国(Kingdom of Italy)でベニート・ムッソリーニ(Benito Mussolini, 1883–1945)が失脚し、ピエトロ・バドリオ(Pietro Badoglio, 1871–1956)政権が成立しました。24日からはハンブルクへのゴモラ作戦(Operation Gomorrah)が始まり、都市爆撃の被害が拡大しました。アメリカ合衆国(United States of America)では1日、アメリカ陸軍婦人部隊(Women’s Army Corps)が正式な軍組織となり、同日から1943年現行納税法(Current Tax Payment Act of 1943)に基づく連邦所得税の給与源泉徴収も始まりました。26日にはロサンゼルスで初期の大規模スモッグ被害が発生し、戦時工業化と都市環境問題が社会問題として表面化しました。
この月の確認されている録音:0曲
1943年7月の録音に関する情報のまとめ
1943年7月の録音産業は、1942年8月1日から続くアメリカ音楽家連盟(American Federation of Musicians)会員による商業録音拒否の影響下にありました。1943年7月3日の『ザ・ビルボード(The Billboard)』は、録音禁止がさらに厳しくなり、有力歌手側も録音を控える方向に進んでいる状況を報じています。そのため、当月の録音関連活動は、新規の器楽商業録音よりも、既存マスターの発売、在庫盤の販売、ヴォーカル中心盤、放送用電気転写盤ライブラリー、政府・軍関係の録音計画に重点が移っていました。
アメリカ音楽家連盟
アメリカ音楽家連盟(American Federation of Musicians)は、1943年7月時点でも商業レコード会社向けの録音禁止を継続していました。『ザ・ビルボード(The Billboard)』1943年7月3日号の記事「Recording Ban Grows Tighter; Vocalists Agree to Stop Recording Until AFM Lifts Ban」は、歌手側にも録音停止の圧力が広がったことを伝えており、当月の新譜市場が既存マスター、旧録音、ヴォーカル中心盤に依存していた背景を説明します。ただし、この禁止はすべての音声記録を一律に停止したものではなく、放送、政府機関向け、軍向け、放送用電気転写盤などは別枠で動いていました。
- https://www.worldradiohistory.com/Archive-All-Music/Billboard/40s/1943/Billboard%201943-07-03.pdf
- https://digital.library.unt.edu/ark:/67531/metadc504163/
- https://mainspringpress.org/2024/11/23/the-man-who-crippled-the-recording-industry-james-caesar-petrillo-and-the-american-federation-of-musicians-recording-bans/
デッカ・レコード・インコーポレイテッド
デッカ・レコード・インコーポレイテッド(Decca Records, Inc.)は、録音禁止下でも1943年7月の販売・宣伝面で目立つ存在でした。『ザ・ビルボード(The Billboard)』の当月号では、ザ・ソング・スピナーズ(The Song Spinners)の「Comin’ In On A Wing And A Prayer」や、ディック・ヘイムズ(Dick Haymes, 1918–1980)の「You’ll Never Know」が同社盤として大きく扱われています。1943年7月31日号では、ローレンス・ウェルク(Lawrence Welk, 1903–1992)の「South」(Decca No. 4420)も同月発売盤として確認できます。ただし、これらを1943年7月録音とする根拠は当月資料上確認できません。
- https://www.worldradiohistory.com/Archive-All-Music/Billboard/40s/1943/Billboard%201943-07-03.pdf
- https://www.worldradiohistory.com/Archive-All-Music/Billboard/40s/1943/Billboard%201943-07-24.pdf
- https://www.worldradiohistory.com/Archive-All-Music/Billboard/40s/1943/Billboard%201943-07-31.pdf
キャピトル・レコード・インコーポレイテッド
キャピトル・レコード・インコーポレイテッド(Capitol Records, Inc.)は、1943年7月時点でも発売・宣伝活動を続けていました。『ザ・ビルボード(The Billboard)』1943年7月17日号では、フレディ・スラック(Freddie Slack, 1910–1965)のキャピトル盤「Get On Board, Little Chillun / Old Rob Roy」がレコード欄で扱われています。一方、キャピトル・レコード・インコーポレイテッド(Capitol Records, Inc.)がアメリカ音楽家連盟(American Federation of Musicians)との録音再開条件に合意するのは1943年10月とされるため、1943年7月に組合員器楽奏者を用いた新規商業録音を再開したとは確認できません。
- https://www.worldradiohistory.com/Archive-All-Music/Billboard/40s/1943/Billboard%201943-07-17.pdf
- https://mainspringpress.org/2024/11/23/the-man-who-crippled-the-recording-industry-james-caesar-petrillo-and-the-american-federation-of-musicians-recording-bans/
コロムビア・レコーディング・コーポレーション
コロムビア・レコーディング・コーポレーション(Columbia Recording Corporation)は、1943年7月時点ではアメリカ音楽家連盟(American Federation of Musicians)との商業録音再開合意に至っておらず、当月資料で確実に確認できる活動は、発売・広告・既存マスターの運用です。『ザ・ビルボード(The Billboard)』1943年7月号には、コロムビア・レコード(Columbia Records)の広告・レコード市場上の表示が確認できますが、1943年7月に同社が組合員器楽奏者による新規商業録音を再開した事実は確認できません。
- https://www.worldradiohistory.com/Archive-All-Music/Billboard/40s/1943/Billboard%201943-07-24.pdf
- https://hdl.loc.gov/loc.mbrsrs/eadmbrs.rs005002.3
- https://mainspringpress.org/2024/11/23/the-man-who-crippled-the-recording-industry-james-caesar-petrillo-and-the-american-federation-of-musicians-recording-bans/
アールシーエー・ヴィクター部門
ラジオ・コーポレーション・オブ・アメリカ(Radio Corporation of America)のアールシーエー・ヴィクター部門(RCA Victor Division)は、1943年7月時点ではアメリカ音楽家連盟(American Federation of Musicians)との商業録音再開合意に至っていませんでした。そのため、当月に確認できる同部門の動きは、ヴィクター(Victor)およびブルーバード(Bluebird)系の既存カタログ、販売、在庫盤運用を中心に見る必要があります。1943年7月の新規器楽商業録音として本文に確定掲載できる個別録音は確認できません。
- https://catalog.hathitrust.org/Record/103004274
- https://www.worldradiohistory.com/Archive-All-Music/Billboard/40s/1943/Billboard%201943-07-24.pdf
- https://mainspringpress.org/2024/11/23/the-man-who-crippled-the-recording-industry-james-caesar-petrillo-and-the-american-federation-of-musicians-recording-bans/
ワールド・ブロードキャスティング・システム・インコーポレイテッド
ワールド・ブロードキャスティング・システム・インコーポレイテッド(World Broadcasting System, Inc.)は、商業レコードとは別に、放送局向けの電気転写盤ライブラリーを扱う録音関連企業として1943年7月に動きを確認できます。1943年8月7日号に掲載された7月31日付の記事では、同社のスタジオ稼働が前年のおよそ50%であり、アメリカ合衆国戦時情報局(United States Office of War Information)など政府機関向け業務が広告代理店向け業務の落ち込みを補っていたと報じられています。同記事から、当月の個別録音タイトルまでは確認できません。
- https://archive.org/stream/bub_gb_owwEAAAAMBAJ/bub_gb_owwEAAAAMBAJ_djvu.txt
- https://www.worldradiohistory.com/Archive-All-Music/International-Musician/40s/International-Musician-1943-04.pdf
- https://mainspringpress.org/2024/11/23/the-man-who-crippled-the-recording-industry-james-caesar-petrillo-and-the-american-federation-of-musicians-recording-bans/
アソシエイテッド・ミュージック・パブリッシャーズ・インコーポレイテッド
アソシエイテッド・ミュージック・パブリッシャーズ・インコーポレイテッド(Associated Music Publishers, Inc.)は、1943年7月31日付の業界記事で放送用ライブラリー関連の好調な動きが報じられています。同記事では、同社のレコード・プレス工場が昼夜稼働しており、録音禁止を見越して2年以上持つだけのマスターを事前に用意していたとされています。また、必要なヒット曲のマスターを欠く場合は、器楽伴奏なしの形で補ったと説明されています。したがって、1943年7月の同社活動は、商業新譜録音ではなく、放送局向けライブラリーとプレス供給を中心に位置づけられます。
- https://archive.org/stream/bub_gb_owwEAAAAMBAJ/bub_gb_owwEAAAAMBAJ_djvu.txt
- https://www.worldradiohistory.com/Archive-All-Music/International-Musician/40s/International-Musician-1943-04.pdf
ラングワース・フィーチャー・プログラムズ・インコーポレイテッド
ラングワース・フィーチャー・プログラムズ・インコーポレイテッド(Lang-Worth Feature Programs, Inc.)は、1943年7月31日付の同時代業界記事で、録音禁止の状況下に放送局契約を45局増やしたと報じられています。同社は旧曲や放送用に利用しやすい音楽ライブラリーを供給しており、新規商業レコードを店頭調達しにくくなった放送局にとって代替的な音源供給源になっていました。1943年7月の個別録音タイトルは、同記事からは確認できません。
- https://archive.org/stream/bub_gb_owwEAAAAMBAJ/bub_gb_owwEAAAAMBAJ_djvu.txt
- https://www.worldradiohistory.com/Archive-All-Music/International-Musician/40s/International-Musician-1943-04.pdf
ナショナル・ブロードキャスティング・カンパニー録音部門
ナショナル・ブロードキャスティング・カンパニー・インコーポレイテッド録音部門(Radio Recording Division, National Broadcasting Company, Inc.)のシソーラス(Thesaurus)は、1943年7月31日付の業界記事で、放送用電気転写盤ライブラリーの主要供給元として扱われています。同記事では、同部門が少なくとも9か月分のマスターを保持し、契約局数も前年より約3分の1増えていたと報じられています。これは、商業レコード会社の新録音が制限されるなかで、放送局向け録音ライブラリーの需要が高まっていたことを示します。
- https://archive.org/stream/bub_gb_owwEAAAAMBAJ/bub_gb_owwEAAAAMBAJ_djvu.txt
- https://www.colorado.edu/amrc/sites/default/files/attached-files/v-discs.pdf
Vディスク計画
1943年7月には、アメリカ合衆国陸軍特別サービス部(United States Army Special Services Division)によるVディスク(V-Disc)計画が具体化しました。Vディスク(V-Disc)は、アメリカ合衆国軍人向けに配布する非売品レコードとして構想され、商業販売用レコードとは別枠で扱われました。最初のVディスク(V-Disc)は1943年10月1日にカムデンから出荷されたとされるため、1943年7月段階では実際の定期配布前の準備期にあたります。後にこの計画は、アメリカ音楽家連盟(American Federation of Musicians)の録音禁止下でも軍向け録音を可能にする重要な例外となりました。
- https://www.colorado.edu/amrc/sites/default/files/attached-files/v-discs.pdf
- https://rsa.fau.edu/v-disc
- https://ethw.org/V-discs
