1954年7月に録音された音楽
1954年7月、スイス連邦(Swiss Confederation)では4日、1954年国際サッカー連盟ワールドカップ(1954 FIFA World Cup)決勝でドイツ連邦共和国代表がハンガリー代表を3–2で破りました。同じ7月上旬、グレートブリテン及び北アイルランド連合王国(United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland)では戦時以来の食料配給制度が終わり、戦後統制の象徴が消えました。13日にはメキシコの画家フリーダ・カーロ(Frida Kahlo, 1907–1954)が死去し、15日にはボーイング・エアクラフト社(Boeing Aircraft Company)のボーイング367-80(Boeing 367-80)が初飛行しました。21日にはジュネーヴ会議インドシナ平和回復問題最終宣言(Final Declaration, Dated the 21st July, 1954, of the Geneva Conference on the Problem of Restoring Peace in Indo-China)がまとまり、27日にはスエズ運河基地(Suez Canal Base)をめぐる英国・エジプト間のヘッズ・オブ・アグリーメント(Heads of Agreement)が仮署名されました。29日にはジョン・ロナルド・ルーエル・トールキン(John Ronald Reuel Tolkien, 1892–1973)の『指輪物語 第一部 旅の仲間』(The Fellowship of the Ring)が刊行され、31日にはアキッレ・コンパニョーニ(Achille Compagnoni, 1914–2009)とリーノ・ラチェデッリ(Lino Lacedelli, 1925–2009)がケーツー(K2)初登頂を達成しました。
この月の確認されている録音:0曲
1954年7月の録音に関する情報のまとめ
1954年7月の録音関連では、米国の業界誌『ザ・キャッシュ・ボックス』(The Cash Box)に、ポピュラー音楽、リズム・アンド・ブルース、カントリー・アンド・ウェスタン、クラシック普及企画、ジュークボックス関連機器の動きが同時に現れます。サン・レコード(Sun Records)でのエルヴィス・プレスリー(Elvis Presley, 1935–1977)の初期商業録音、アールシーエー・ヴィクター・レコード(RCA Victor Records)のマンボ系新譜とクラシック入門企画、キャピトル・レコード・インコーポレイテッド(Capitol Records, Inc.)とマーキュリー・レコード・コーポレーション(Mercury Record Corporation)の販売会議、アトランティック・レコーディング社(Atlantic Recording Corporation)、キャット・レコード(Cat Records)、チェス・レコード(Chess Records)、チェッカー・レコード(Checker Records)などのリズム・アンド・ブルース系録音の流通が、当月の市場を特徴づけています。
サン・レコード
1954年7月5日夜、テネシー州メンフィスのメンフィス・レコーディング・サーヴィス(Memphis Recording Service)で、サン・レコード(Sun Records)のサム・フィリップス(Sam Phillips, 1923–2003)が、エルヴィス・プレスリー(Elvis Presley, 1935–1977)、スコティ・ムーア(Scotty Moore, 1931–2016)、ビル・ブラック(Bill Black, 1926–1965)による「ザッツ・オール・ライト」(That’s All Right)を録音しました。同曲は1954年7月19日にサン・レコード(Sun Records)から発売され、同月のメンフィス発の独立レーベル録音として重要な位置を占めます。『ザ・キャッシュ・ボックス』(The Cash Box)1954年7月24日号には、ジェイムズ・コットン(James Cotton, 1935–2017)の Sun 206「Cotton Crop Blues」/「Hold Me in Your Arms」も扱われており、サン・レコード(Sun Records)がブルースとロックンロール前夜の領域で並行して動いていたことが分かります。
- https://www.loc.gov/static/programs/national-recording-preservation-board/documents/Sun-Records-sessions.pdf
- https://www.graceland.com/1954-1957
- https://www.worldradiohistory.com/Archive-All-Music/Cash-Box/50s/1954/CB-1954-07-24.pdf
アールシーエー・ヴィクター
1954年7月24日号の『ザ・キャッシュ・ボックス』(The Cash Box)では、ラジオ・コーポレーション・オブ・アメリカ(Radio Corporation of America)のアールシーエー・ヴィクター・レコード(RCA Victor Records)が、マンボ系新譜を大きく広告しています。表紙ではヴォーン・モンロー(Vaughn Monroe, 1911–1973)の「ゼイ・ワー・ドゥーイン・ザ・マンボ」(They Were Doin’ the Mambo)が好調盤として扱われ、同号の広告にはペレス・プラード(Pérez Prado, 1916–1989)などのマンボ関連盤も並びます。同号には、アールシーエー・ヴィクター・レコード(RCA Victor Records)がクラシック音楽の聴取層を広げるため、10枚のエクステンデッド・プレイ45回転盤と45回転自動レコードプレーヤーを組み合わせた「リスナーズ・ダイジェスト」(Listener’s Digest)を導入した記事も掲載されています。さらに、同じラジオ・コーポレーション・オブ・アメリカ(Radio Corporation of America)系のラベル・エックス(Label “X”)は、シカゴの全米音楽商人協会大会(National Association of Music Merchants Convention)期間中に販売代理店との昼食会を開き、新人材とパッケージ商品の強化方針を示しています。
キャピトル・レコード
キャピトル・レコード・インコーポレイテッド(Capitol Records, Inc.)は、コロラド州エステス・パークのスタンリー・ホテルで第2回販売会議を開き、1954年8月–9月に販売店へ提示する秋季プログラムを準備しました。『ザ・キャッシュ・ボックス』(The Cash Box)1954年7月24日号は、約240人のキャピトル販売担当者がこの会議に参加したこと、さらに会議後に全米56か所で販売店向け会合を開き、最初の会合が1954年7月15日に始まることを伝えています。同号のアルバム売上欄には、ナット・キング・コール(Nat King Cole, 1919–1965)の『10th Anniversary』Capitol W 514や、フランク・シナトラ(Frank Sinatra, 1915–1998)の『Songs for Young Lovers』Capitol H 488も確認できます。
マーキュリー・レコードとエマーシー・レコード
マーキュリー・レコード・コーポレーション(Mercury Record Corporation)は、1954年7月9日–11日にフロリダ州マイアミ・ビーチで年次販売代理店会議を開き、秋季アルバム計画を提示しました。『ザ・キャッシュ・ボックス』(The Cash Box)1954年7月24日号によると、同社は月2枚のアルバム発売、ポピュラー・アルバム、クラシック・アルバム、さらに1954年8月までに48点のエマーシー・レコード(EmArcy Records)ジャズLP・EPを出す計画を示しました。記事には、サラ・ヴォーン(Sarah Vaughan, 1924–1990)、エロール・ガーナー(Erroll Garner, 1921–1977)、アート・ブレイキー(Art Blakey, 1919–1990)、ポール・クイニシェット(Paul Quinichette, 1916–1983)などの名が挙げられています。同号のディスクジョッキー集計では、ザ・ゲイローズ(The Gaylords)の「The Little Shoemaker」とザ・クルー・カッツ(The Crew-Cuts)の「Sh-Boom」も確認でき、マーキュリー・レコード・コーポレーション(Mercury Record Corporation)はポピュラー盤とジャズ・アルバム計画を並行して展開していました。
コロムビア・レコード
1954年7月24日号の『ザ・キャッシュ・ボックス』(The Cash Box)では、コロムビア・レコード(Columbia Records)のLPとシングルが複数の欄で確認できます。同号のアルバム欄では、オリジナル・キャスト録音『パジャマ・ゲーム』(The Pajama Game)Columbia ML 4840と、リベラーチェ(Liberace, 1919–1987)の『Sincerely, Liberace』Columbia BL 1001が上位盤として扱われています。また同号には、モーリス・シュヴァリエ(Maurice Chevalier, 1888–1972)の『Paris Je T’aime』Columbia CL 568の紹介、ミンディ・カーソン(Mindy Carson, 1927–2021)の Columbia 40276、ペギー・キング(Peggy King, 1930–2024)の Columbia 40273のレビューがあり、コロムビア・レコード(Columbia Records)がミュージカル、ヴォーカル、ポピュラー・シングルを同時に流通させていたことが分かります。
デッカ・レコード
デッカ・レコード・インコーポレイテッド(Decca Records, Inc.)は、1954年7月時点のポピュラー市場で大きな存在感を示しています。『ザ・キャッシュ・ボックス』(The Cash Box)1954年7月24日号のディスクジョッキー集計では、キティ・カレン(Kitty Kallen, 1921–2016)の「Little Things Mean a Lot」とザ・フォー・エイシズ(The Four Aces)の「Three Coins in the Fountain」が上位にあります。カントリー・アンド・ウェスタン欄でも、ウェッブ・ピアース(Webb Pierce, 1921–1991)、キティ・ウェルズ(Kitty Wells, 1919–2012)、レッド・フォーリー(Red Foley, 1910–1968)らのデッカ・レコード・インコーポレイテッド(Decca Records, Inc.)盤が確認できます。これにより、同社がポピュラー、映画主題歌系、カントリー市場を横断して流通力を保っていたことが分かります。
アトランティック・レコーディング社とキャット・レコード
1954年7月24日号の『ザ・キャッシュ・ボックス』(The Cash Box)では、アトランティック・レコーディング社(Atlantic Recording Corporation)とキャット・レコード(Cat Records)のリズム・アンド・ブルース系録音が、ポピュラー市場とジュークボックス市場の双方で目立っています。ディスクジョッキー集計では、ザ・コードズ(The Chords)の「Sh-Boom」Cat 104が、ザ・クルー・カッツ(The Crew-Cuts)のマーキュリー・レコード・コーポレーション(Mercury Record Corporation)盤と並んで扱われています。リズム・アンド・ブルース欄では、ジョー・ターナー(Joe Turner, 1911–1985)の「Shake, Rattle and Roll」Atlantic 1026、ザ・ドリフターズ(The Drifters)の「Honey Love」Atlantic 1029が確認できます。同号の業界記事には、ジェリー・ウェクスラー(Jerry Wexler, 1917–2008)とアーメット・アーティガン(Ahmet Ertegun, 1923–2006)がアトランティック・レコーディング社(Atlantic Recording Corporation)とキャット・レコード(Cat Records)を代表する人物として登場しており、同社系レーベルが1954年7月の米国リズム・アンド・ブルース市場で重要な位置にあったことを示しています。
チェス・レコードとチェッカー・レコード
1954年7月24日号の『ザ・キャッシュ・ボックス』(The Cash Box)では、チェス・レコード(Chess Records)とチェッカー・レコード(Checker Records)の活動も確認できます。リズム・アンド・ブルース欄には、マディ・ウォーターズ(Muddy Waters, 1913–1983)の「Just Make Love to Me」Chess 1521、リトル・ウォルター(Little Walter, 1930–1968)の「Oh Baby」Checker 793、ダニー・オーヴァービア(Danny Overbea, 1926–1994)の「You’re Mine」Checker 796が掲載されています。同号にはチェス・レコード(Chess Records)の広告もあり、シカゴの独立レーベルが南部ブルースと都市型リズム・アンド・ブルースを全国市場に押し出していたことが読み取れます。
コーラル・レコード
1954年7月24日号の『ザ・キャッシュ・ボックス』(The Cash Box)には、コーラル・レコード(Coral Records)のA&R責任者ボブ・シール(Bob Thiele, 1922–1996)と、ポール・ホワイトマン(Paul Whiteman, 1890–1967)が、コーラル・レコード(Coral Records)での初セッションを終えた記事が掲載されています。記事では、ポール・ホワイトマン(Paul Whiteman, 1890–1967)が10人編成のバンドを率い、1920年代に用いた編曲を演奏したこと、これが約20年ぶりの新録音であることが説明されています。同月の資料上、コーラル・レコード(Coral Records)は、過去のジャズ・ダンス音楽の名声を新録音として再提示する動きを見せていました。
ナッシュボロ・レコード社とエクセロ・レコード
1954年7月24日号の『ザ・キャッシュ・ボックス』(The Cash Box)には、ナッシュボロ・レコード社(Nashboro Record Co., Inc.)がエクセロ・レコード(Excello Records)2038として、ザ・キャスタウェイズ(The Castaways)の「Teasin’」/「I Wish」を広告しています。同号のレビュー欄でも同盤が扱われ、ザ・キャスタウェイズ(The Castaways)のノヴェルティ色のあるヴォーカル盤として紹介されています。ナッシュボロ・レコード社(Nashboro Record Co., Inc.)は、ゴスペルやリズム・アンド・ブルースを含む独立レーベル運営の一環として、エクセロ・レコード(Excello Records)を通じた新譜訴求を行っていました。
ルドルフ・ワーリッツァー・カンパニー
1954年7月24日号の『ザ・キャッシュ・ボックス』(The Cash Box)では、ルドルフ・ワーリッツァー・カンパニー(The Rudolph Wurlitzer Company)が新型「1700 HF」コイン式フォノグラフを広告しています。広告は、カルーセル・レコード・チェンジャー(Carousel Record Changer)、新しいキャビネット・デザイン、簡略化された機構、軽量化、収益力の向上を訴求しており、ジュークボックスを通じた録音物再生の業務用インフラが1954年7月時点でも重要な市場であったことを示しています。これは録音制作会社ではなく、録音物の再生・流通を支える主要機器会社の当月活動です。
