1955年3月に録音された音楽
1955年3月は、政治、科学技術、大衆文化、スポーツ、録音産業の変化が重なった月です。3月2日、カンボジア王国(Kingdom of Cambodia)のノロドム・シハヌーク(Norodom Sihanouk, 1922–2012)は退位し、父ノロドム・スラマリット(Norodom Suramarit, 1896–1960)が即位しました。アメリカ合衆国では、ネバダ核実験場(Nevada Test Site)でオペレーション・ティーポット(Operation TEAPOT)が続き、3月にも複数の核実験が行われました。3月7日、ナショナル・ブロードキャスティング社(National Broadcasting Company)はメアリー・マーティン(Mary Martin, 1913–1990)主演のミュージカル『ピーター・パン』(Peter Pan)をテレビ放送し、舞台ミュージカルとテレビ放送の結びつきを広げました。3月11日にはアレクサンダー・フレミング(Alexander Fleming, 1881–1955)が死去し、3月12日にはチャーリー・パーカー(Charlie Parker, 1920–1955)がニューヨークで死去しました。3月17日にはモーリス・リシャール(Maurice Richard, 1921–2000)への処分をきっかけに、モントリオールでリシャール暴動(Richard Riot)が発生しました。3月19日には映画『暴力教室』(Blackboard Jungle)がニューヨークで公開され、ビル・ヘイリー・アンド・ヒズ・コメッツ(Bill Haley and His Comets)の「ロック・アラウンド・ザ・クロック」(Rock Around the Clock)がロックンロールの大衆的拡大と強く結びつきました。
この月の確認されている録音:0曲
1955年3月の録音に関する情報のまとめ
1955年3月の録音産業では、ジュークボックス業界、テレビ、映画、独立系レーベル、長時間盤アルバムが相互に結びつき、ポピュラー音楽の市場構造が急速に広がっていました。アールシーエー・ヴィクター(RCA Victor)はジュークボックス業界と連動した新人発掘企画を展開し、リバティ・レコード(Liberty Records)は映画音楽系人材を起点に新興レーベルとして動き始めました。コロムビア・レコード(Columbia Records)は販売店向け販促録音を活用し、チェッカー・レコード(Checker Records)とチェス・レコード(Chess Records)ではボ・ディドリー(Bo Diddley, 1928–2008)の初期重要録音が行われました。インペリアル・レコード(Imperial Records)ではファッツ・ドミノ(Fats Domino, 1928–2017)の代表作が録音され、デッカ・レコード(Decca Records)では前年録音の「ロック・アラウンド・ザ・クロック」(Rock Around the Clock)が映画公開によって新たな意味を持ちました。キャピトル・レコード(Capitol Records)とケイデンス・レコード(Cadence Records)の動きも、1955年3月の録音文化とレコード市場を示す重要な要素です。
アールシーエー・ヴィクター
アールシーエー・ヴィクター(RCA Victor)は、ミュージック・オペレーターズ・オブ・アメリカ(Music Operators of America)と共同で「ミス・ジューク・ボックス・オブ・1955」(Miss Juke Box of 1955)を実施しました。1955年3月5日号と3月12日号の『ザ・キャッシュ・ボックス』(The Cash Box)では、応募締切が1955年3月15日、決選会が1955年3月28日–30日のシカゴのミュージック・オペレーターズ・オブ・アメリカ大会とされ、優勝者にはアールシーエー・ヴィクター(RCA Victor)との録音契約が与えられると案内されています。これは、ジュークボックス運営者、録音契約、家庭用蓄音機、カラー・テレビ受像機を結びつけた販促企画でした。
- https://www.worldradiohistory.com/Archive-All-Music/Cash-Box/50s/1955/CB-1955-03-05.pdf
- https://www.worldradiohistory.com/Archive-All-Music/Cash-Box/50s/1955/CB-1955-03-12.pdf
リバティ・レコード
リバティ・レコード(Liberty Records)は、1955年にハリウッドで設立された新興レーベルとして、映画音楽とオーケストラ録音を初期活動の中心に置きました。1955年3月時点では、ライオネル・ニューマン(Lionel Newman, 1916–1989)による「ザ・ガール・アップステアーズ」(The Girl Upstairs)と「コンクエスト」(Conquest)を収めたLiberty F 55001が確認できます。1955年3月12日号の『ビルボード』(Billboard)でも、リバティ・レコード(Liberty Records)とライオネル・ニューマン(Lionel Newman, 1916–1989)の関係が扱われており、同社が映画音楽系の人脈を背景に録音事業へ入ったことが読み取れます。
- https://www.worldradiohistory.com/Archive-All-Music/Billboard/50s/1955/Billboard%201955-03-12.pdf
- https://www.bsnpubs.com/liberty/liberty.html
- https://www.45cat.com/record/f55001
コロムビア・レコード
コロムビア・レコード(Columbia Records)は、販売店向け媒体『ザ・コロムビア・リテイラー』(The Columbia Retailer)に関連する販促用録音を活用していました。1955年3月12日号の『ビルボード』(Billboard)は、同社幹部や制作スタッフによるジャズ風の録音ユニット、ホット・マスターズ(The Hot Masters)を取り上げ、この録音が『ザ・コロムビア・リテイラー』(The Columbia Retailer)に含まれる販促レコードとして用いられたことを伝えています。これは市販盤の新譜紹介ではなく、販売店向けコミュニケーションに録音物を利用した例でした。
- https://www.worldradiohistory.com/Archive-All-Music/Billboard/50s/1955/Billboard%201955-03-12.pdf
- https://www.discogs.com/release/4846580-Various-Columbia-Retailer-Volume-1-Number-1
- https://archives.nypl.org/mus/22589
チェッカー・レコード/チェス・レコード
チェッカー・レコード(Checker Records)とチェス・レコード(Chess Records)では、1955年3月2日にシカゴのユニバーサル・レコーディング・スタジオ(Universal Recording Studio)で、ボ・ディドリー(Bo Diddley, 1928–2008)の「ボ・ディドリー」(Bo Diddley)と「アイム・ア・マン」(I’m a Man)が録音されました。アメリカ議会図書館(Library of Congress)の録音保存資料では、このセッションがレナード・チェス(Leonard Chess, 1917–1969)によって設定された正式録音セッションとして説明されています。両面はChecker 814として発売され、リズム・アンド・ブルースとロックンロールの接点を示す重要録音になりました。
- https://www.loc.gov/static/programs/national-recording-preservation-board/documents/BoDiddley.pdf
- https://www.discogs.com/release/8075645-Bo-Diddley-Bo-Diddley-Im-A-Man
インペリアル・レコード
インペリアル・レコード(Imperial Records)では、1955年3月15日にファッツ・ドミノ(Fats Domino, 1928–2017)の「エイント・イット・ア・シェイム」(Ain’t It a Shame)が録音されました。曲はファッツ・ドミノ(Fats Domino, 1928–2017)とデイヴ・バーソロミュー(Dave Bartholomew, 1918–2019)による作品で、後に「エイント・ザット・ア・シェイム」(Ain’t That a Shame)として広く知られるようになりました。1955年4月にImperial 5348として発売されたこの録音は、リズム・アンド・ブルースの録音がポップ市場へ広がる過程を示す代表的な事例です。
- https://www.wunc.org/2000-05-01/the-story-of-fats-dominos-aint-that-a-shame
- https://www.discogs.com/release/8837411-Fats-Domino-Aint-It-A-Shame-La-La
- https://www.vocalgroupharmony.com/7ROWNEW/ImperialRecordsPartFour.htm
デッカ・レコード
デッカ・レコード(Decca Records)では、ビル・ヘイリー・アンド・ヒズ・コメッツ(Bill Haley and His Comets)の「ロック・アラウンド・ザ・クロック」(Rock Around the Clock)が、1955年3月19日にニューヨークで公開された映画『暴力教室』(Blackboard Jungle)によって新たな注目を集めました。この録音は1955年3月の新録音ではなく、1954年にデッカ・レコード(Decca Records)で録音・発売された盤でしたが、映画の冒頭で使われたことで、ロックンロールを若年層文化と結びつける象徴的な録音になりました。
- https://www.loc.gov/static/programs/national-recording-preservation-board/documents/RockAroundTheClock.pdf
- https://www.britannica.com/topic/Blackboard-Jungle
キャピトル・レコード
キャピトル・レコード(Capitol Records)では、フランク・シナトラ(Frank Sinatra, 1915–1998)のアルバム『イン・ザ・ウィー・スモール・アワーズ』(In the Wee Small Hours)に関する録音が1955年2月から3月にかけて進められ、1955年3月4日のセッションも確認できます。同作は1955年4月に発売され、失恋、孤独、夜の情景を統一的に構成した長時間盤アルバムとして、1950年代のポピュラー音楽アルバムの表現を広げました。1955年3月のキャピトル・レコード(Capitol Records)の動きとしては、シングル中心の市場だけでなく、アルバム全体を表現単位とする方向性が確認できます。
- https://music.apple.com/us/album/in-the-wee-small-hours/1440815019
- https://www.sinatra.com/frank-sinatras-seminal-1955-capitol-album-in-the-wee-small-hours-to-be-reissued-in-blue-notes-tone-poet-vinyl-series-on-nov-14-marking-the-albums-70th-anniversary/
- https://www.discogs.com/master/96471-Frank-Sinatra-In-The-Wee-Small-Hours
ケイデンス・レコード
ケイデンス・レコード(Cadence Records)は、ビル・ヘイズ(Bill Hayes, 1925–2024)の「デイヴィー・クロケットのバラード」(The Ballad of Davy Crockett)をCadence 1256として発売し、1955年3月には同盤が全米レコード市場で急伸しました。『ザ・キャッシュ・ボックス』(The Cash Box)の1955年3月12日付チャートでは同盤が上位に入り、3月26日付チャートでは首位に立っています。これは当月録音ではなく、テレビ番組由来の楽曲がレコード市場、ラジオ、ジュークボックスで大きな需要を生んだ事例です。
- https://tropicalglen.com/Archives/50s_files/19550312.html
- https://tropicalglen.com/Archives/50s_files/19550326.html
- https://archive.org/details/78_the-ballad-of-davy-crockett_bill-hayes-archie-bleyer-t-blackburn-g-bruns_gbia0017985a
