Au Clair De La Lune
『Au Clair de la Lune』は、フランスの伝統的な童謡・民謡であり、18世紀中頃にはすでに広く歌われていた記録があります。日本語では「月の光の下で」と訳されるこの歌は、ピエロという登場人物と詩人のような語り手が、夜中に火とペンを借りるという素朴な物語を語る短い詩にメロディをつけたものです。詞は4行ずつの詩形で構成され、分かりやすく記憶しやすいリズムと五音音階の旋律が特徴です。

By Unknown author – Théophile Marion Dumersan, Chansons nationales et populaires de France, vol. I, 1866 [1], Public Domain, Link
この楽曲は単なる童謡としてだけでなく、音楽史上においても重要な役割を果たしています。最も注目すべきは、1860年に世界で最初に録音された人間の歌声として記録された曲であるという点です。この録音を行ったのはフランスの発明家エドゥアール=レオン・スコット・ド・マルタンヴィル(Édouard-Léon Scott de Martinville)で、彼の発明した「フォノトグラフ(Phonautograph)」という装置により、音声の波形が紙に記録されました。これらの波形は当時再生不能でしたが、21世紀に入ってから米国の研究団体「First Sounds」がデジタル解析を行い、音声として再生可能になりました。その中に含まれていたのが『Au Clair de la Lune』の一節です。この音声は1857年のエジソンによる蓄音機の発明よりも17年も前のもので、録音史の新たな起点として世界的に注目されました。
この童謡は、現在でもフランス語教育や子ども向けの音楽教材、楽器の初歩練習曲として親しまれています。また、音楽理論や音響研究においても取り上げられることがあり、単純であるがゆえに奥深い教材とされています。文化的アイコンとして、テレビや映画、文学の中でもたびたび引用されており、その存在感は時代を超えて継続しています。
