1917年5月に録音された音楽
1917年5月は、第一次世界大戦の長期化が各国の政治と社会をいっそう動かした月でした。メキシコではベヌスティアーノ・カランサ(Venustiano Carranza, 1859–1920)が5月1日に憲法上の大統領に就任し、新憲法体制の出発点が形づくられました。フランスではロベール・ニヴェル(Robert Nivelle, 1856–1924)に代わってフィリップ・ペタン(Philippe Pétain, 1856–1951)が5月15日に総司令官となり、軍の再建が急がれました。アメリカ合衆国では5月18日に選抜徴兵法(Selective Service Act of 1917)が成立し、総力戦体制が制度面でも整います。文化面では同じ5月18日、パリのシャトレ座(Théâtre du Châtelet)でバレエ《パラード》(Parade)が初演され、エリック・サティ(Erik Satie, 1866–1925)、ジャン・コクトー(Jean Cocteau, 1889–1963)、パブロ・ピカソ(Pablo Picasso, 1881–1973)らの協働が前衛芸術史に残る出来事となりました。さらに5月21日にはアトランタ大火が発生し、5月24日には最初のアメリカ軍船団が大西洋へ向けて出発しました。
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1917年5月の録音に関する情報のまとめ
1917年5月の録音業界では、戦時下でも各社が新譜冊子、補遺、店頭広告、実演展示を通じて販売を継続していました。当月の一次資料または同時代業界資料で活動を確認しやすい企業としては、ヴィクター・トーキング・マシン社(Victor Talking Machine Company)、トーマス・A・エジソン社(Thomas A. Edison, Inc.)、パテ・フレール・フォノグラフ社(Pathé Frères Phonograph Co.)、ブランズウィック=バルク=コレンダー社(Brunswick-Balke-Collender Company)、ソノラ・フォノグラフ社(Sonora Phonograph Corporation)が挙げられます。コロンビア・グラフォフォン社(Columbia Graphophone Company)についても、5月末の録音活動を示す後年研究がありますが、当月広告や補遺の細部は今回確認できた資料の範囲に限界があります。
Victor
ヴィクター・トーキング・マシン社(Victor Talking Machine Company)は、1917年5月付の冊子『Victor records』を刊行しており、当月の新譜供給を継続していました。さらに、アメリカ議会図書館(Library of Congress)の解説では、オリジナル・ディキシーランド・ジャス・バンド(Original Dixieland Jass Band)のヴィクター18255が1917年5月補遺で正式に告知されたことが確認でき、同社が当月の市場に新機軸のダンス音楽を投入していたことが分かります。
- https://archive.org/details/victorrecordsmay00vict_1
- https://blogs.loc.gov/now-see-hear/2017/03/the-first-jazz-recording-one-hundred-years-later/
Edison
トーマス・A・エジソン社(Thomas A. Edison, Inc.)については、1917年5月号『The Talking Machine World』に、ブルー・アンベロール・レコード(Blue Amberol Records)がとくに中西部で「減速の兆しを見せていない」とする記事断片が見えます。また同じ号には、44 Fourteenth Street のエジソン・ダイヤモンド・ディスク・ショップ(Edison Diamond Disc Shop)が専売代理店として扱われていることも確認でき、同社がシリンダーとダイヤモンド・ディスクの双方を並行して販売していたことが分かります。
Columbia
コロンビア・グラフォフォン社(Columbia Graphophone Company)については、社内ファイルとマトリクス番号を検討した後年研究により、1917年5月31日にオリジナル・ディキシーランド・ジャス・バンド(Original Dixieland Jass Band)の録音を行ったと整理されています。少なくとも研究史上では、同社が1917年5月末に新しい流行音楽の録音へ動いていたことは重要です。一方で、当月広告や補遺の細部については今回確認できた範囲では十分に直読できておらず、ここでは5月31日の録音活動確認にとどめます。
- https://ia600409.us.archive.org/29/items/mat-bib_201710/Capturing-sound-how-technology-has-changed-music.pdf
- https://www.canadiana.ca/view/oocihm.97996/1
putty
パテ・フレール・フォノグラフ社(Pathé Frères Phonograph Co.)については、1917年5月24日の新聞広告で、モデル75パテフォン(Model 75 Pathephone)に10インチのパテ両面盤(Pathé Double Records)6枚を組み合わせた販売が確認できます。これは機械とレコードを一体で売る販促であり、当月の同社が店頭で具体的な購買提案を行っていたことを直接示す資料です。
- https://newspapers.library.in.gov/?a=d&d=RPD19170524.1.14
- https://newspapers.library.in.gov/?a=d&d=INN19170524-01.1.13
ブランズウィック
ブランズウィック=バルク=コレンダー社(Brunswick-Balke-Collender Company)は、1917年5月号『The Talking Machine World』で、コロシアムにおける「Brunswick Phonograph Display」を予告されており、展示活動を強めていたことが分かります。さらに5月5日や5月14日の新聞広告では、「The Brunswick Phonograph Plays All Records」や「master stroke in phonograph making」といった文言で販促が行われており、同月に実演販売と広告展開が進んでいたことは確実です。
- https://www.worldradiohistory.com/Archive-Talking-Machine/10s/Talking-Machine-1917-05.pdf
- https://newspapers.library.in.gov/?a=d&d=RPD19170505.1.14
- https://newspapers.library.in.gov/?a=d&d=SBNT19170514.1.10
Sonora
ソノラ・フォノグラフ社(Sonora Phonograph Corporation)については、1917年5月3日の『The Evening World』広告で、「licensed Sonora dealer」を通じた販売が確認できます。また同月号『The Talking Machine World』でも、来店客が技術的特徴を確かめたうえでソノラを選ぶという趣旨の販促文が見え、同社が音質と構造を前面に出した高級機路線で販売網を拡張していたことが分かります。
- https://www.nyshistoricnewspapers.org/?a=d&d=tew19170503-01.1.8
- https://www.worldradiohistory.com/Archive-Talking-Machine/10s/Talking-Machine-1917-05.pdf
