1929年2月に録音された音楽
1929年2月は、外交・金融・犯罪・映画・自然保護が同時に動いた月でした。2月11日、聖座(Holy See)とイタリア王国(Kingdom of Italy)はラテラノ条約(Lateran Treaty)を締結し、バチカン市国(State of Vatican City)の成立へ進みました。同じ2月、パリではオーウェン・D・ヤング(Owen D. Young, 1874–1962)を議長とする賠償問題専門家委員会(Committee of Experts)が協議を開始し、後のヤング案(Young Plan)につながる再賠償交渉が本格化しました。アメリカ合衆国では連邦準備制度理事会(Federal Reserve Board)が2月初旬に投機的証券信用の膨張へ警戒を示し、好況の陰で金融不安が意識されました。2月14日にはシカゴで聖バレンタインデーの虐殺(St. Valentine’s Day Massacre)が起こり、禁酒法時代の暴力を象徴する事件となりました。文化面ではメトロ=ゴールドウィン=メイヤー社(Metro-Goldwyn-Mayer)のブロードウェイ・メロディー(The Broadway Melody)が2月1日に公開され、初期トーキー・ミュージカル映画の代表例となりました。2月26日にはカルヴィン・クーリッジ(Calvin Coolidge, 1872–1933)がグランドティトン国立公園(Grand Teton National Park)創設法に署名し、自然保護政策にも節目が生まれました。
この月の確認されている録音:0曲
1929年2月の録音に関する情報のまとめ
1929年2月の録音業界では、レコード単体の販売だけでなく、映画楽曲との連動、ラジオ=フォノグラフ機の販促、海外市場向け広告、販促カタログの整備が同時に進んでいました。月内の同時代資料で直接活動を確認できる対象を広げて再点検すると、ヴィクター・トーキング・マシン社(Victor Talking Machine Company)、ブランズウィック=バルケ=コレンダー社(Brunswick-Balke-Collender Company)、コロムビア・フォノグラフ社(Columbia Phonograph Company)、トーマス・A・エジソン社(Thomas A. Edison, Inc.)の動きが確認できます。
ヴィクター
1929年2月の業界誌では、ラジオ・コーポレーション・オブ・アメリカ(Radio Corporation of America)とヴィクター・トーキング・マシン社(Victor Talking Machine Company)の統合が、1月4日に両社取締役会で承認された最近の措置として説明されていました。そこでは販売方法を直ちに変えず、研究設備と製造設備の統合がラジオと蓄音機の両分野に利益をもたらすとされていました。また、2月7日、14日、28日の『Indianapolis Times』には「New Records Victor Columbia Out Tomorrow」という広告が出ており、同月を通じて新譜の定期的な店頭投入が続いていたことも確認できます。
- https://www.worldradiohistory.com/Archive-Radio-Engineering/20s/1929/Radio-Engineering-1929-02.pdf
- https://newspapers.library.in.gov/?a=d&d=IPT19290207.1.14
- https://newspapers.library.in.gov/?a=d&d=IPT19290214.1.10
- https://newspapers.library.in.gov/?a=d&d=IPT19290228.1.11
ブランズウィック
ブランズウィック=バルケ=コレンダー社(Brunswick-Balke-Collender Company)は、メトロ=ゴールドウィン=メイヤー社(Metro-Goldwyn-Mayer)のブロードウェイ・メロディー(The Broadway Melody)使用曲のレコード化で他社に先行し、公開から2週間で「Broadway Melody」「Wedding of the Painted Doll」「You Were Meant for Me」「Love Boat」を太平洋岸の楽器店で販売していたと報じられています。さらに2月19日付『Variety』では、シカゴの同社地方事務所がノンシンクロナス・ディスク部門を設置し、該当用途向け在庫カタログを整備していたことも確認できます。同じ記事群では、アル・ジョルソン(Al Jolson, 1886–1950)の「Sonny, Boy」のブランズウィック盤が100万枚を突破したことや、場景再現盤「A Night in Coffee Dan’s」の制作も報じられており、映画関連盤、特殊用途盤、話題盤の三方向で商品展開していたことがわかります。
コロムビア
コロムビア・フォノグラフ社(Columbia Phonograph Company)は、1929年2月19日と2月28日の『The Straits Times』で、1929年型ヴィヴァ=トーナル・コロムビア(Viva-tonal Columbia)の Model 109-A と Model 112-A を広告し、少なくともシンガポール市場では新型機の販促を継続していました。加えて、2月9日と2月23日の『Indianapolis Recorder』には、同社の Race Record Catalog を販売店経由で求める広告が載っており、同月の同社が機械販売と並行してレース・レコード部門のカタログ流通も進めていたことが確認できます。さらに、2月7日、14日、28日の『Indianapolis Times』では、ヴィクター・トーキング・マシン社(Victor Talking Machine Company)と並んでコロムビア・フォノグラフ社(Columbia Phonograph Company)の新譜が「Out Tomorrow」と告知されており、新譜供給の継続も読み取れます。
- https://eresources.nlb.gov.sg/newspapers/digitised/issue/straitstimes19290219-1
- https://eresources.nlb.gov.sg/newspapers/digitised/issue/straitstimes19290228-1
- https://newspapers.library.in.gov/cgi-bin/indiana?a=d&d=INR19290209-01.1.3
- https://newspapers.library.in.gov/?a=d&d=INR19290223-01.1.7
- https://newspapers.library.in.gov/?a=d&d=IPT19290207.1.14
- https://newspapers.library.in.gov/?a=d&d=IPT19290214.1.10
- https://newspapers.library.in.gov/?a=d&d=IPT19290228.1.11
エジソン
トーマス・A・エジソン社(Thomas A. Edison, Inc.)は、1929年2月号の『Radio Retailing』で Edison Radio を前面に出しており、同誌の製品欄には同社名義でレコード一覧も掲載されていました。さらに、2月11日付の地方紙には Edison Radio の広告が確認でき、同月の同社がレコード販売だけでなく、ラジオとフォノグラフを接続する電気式家庭機器の販促を継続していたことがわかります。1929年2月の同社活動は、単独の蓄音機よりも、ラジオ受信と録音再生を結びつけた家庭向け機器販売へ重心を移していた時期として位置づけられます。
- https://www.worldradiohistory.com/Archive-Radio-Retailing/20s/Radio-Retailing-1929-02.pdf
- https://www.virginiachronicle.com/?a=d&d=DRV19290211.1.4
