1926年11月に録音された音楽
1926年11月は、航空法制、科学表彰、道路行政、航空競技、放送、帝国構造、音楽文化の各面で、後年まで影響を残す動きが重なった月でした。11月1日にはイベロアメリカ航空航行条約(Ibero-American Convention on Air Navigation)が締結されました。11月には前年分のノーベル物理学賞がジェームズ・フランク(James Franck, 1882–1964)とグスタフ・ルートヴィヒ・ヘルツ(Gustav Ludwig Hertz, 1887–1975)に、化学賞がリヒャルト・ジークモンディ(Richard Zsigmondy, 1865–1929)に与えられることが広く周知され、原子物理学とコロイド化学の成果が国際的に可視化されました。11月11日にはアメリカ州道路当局者協会(American Association of State Highway Officials)がアメリカ合衆国番号付幹線道路網(U.S. Numbered Highway System)を採択し、後に合衆国66号線として知られる路線体系もこの枠組みに組み込まれました。11月13日にはマリオ・デ・ベルナルディ(Mario de Bernardi, 1893–1959)がシュナイダー・トロフィー競技の過程で水上機速度の世界記録を樹立しました。11月15日にはナショナル・ブロードキャスティング・カンパニー(National Broadcasting Company)が放送を開始し、全米規模の放送網時代が本格化しました。11月18日付のバルフォア報告(Balfour Report)は、イギリス帝国(British Empire)内の自治領を「地位において対等」と定義し、のちのイギリス連邦(British Commonwealth)体制の整理に大きく影響しました。文化面では、ベルリンでリヒャルト・シュトラウス(Richard Strauss, 1864–1949)の歌曲集《商人の鏡》(Der Kraemerspiegel)が初演され、長く公の場に現れなかった作品がようやく上演されました。
この月の確認されている録音:0曲
1926年11月の録音に関する情報のまとめ
1926年11月の録音業界は、レコード、蓄音機、ラジオ、店頭放送、公開展示が同時に動いていたことを同時代業界誌から確認できます。当月の資料上で具体的な活動を確認できる主要な録音関連企業としては、ヴィクター・トーキング・マシン社(Victor Talking Machine Company)、コロムビア・フォノグラフ社(Columbia Phonograph Co.)、ブランズウィック・バルク・コレンダー社(Brunswick-Balke-Collender Co.)、J・P・シーバーグ・ピアノ社(J. P. Seeburg Piano Co.)、スター・ピアノ社(Starr Piano Co.)のジェネット・レコード(Gennett Records)が挙げられます。確認できる範囲では、11月の動きは新譜追加だけでなく、販売拠点の整備、録音人員や歌手の投入、複合機の訴求、博覧会展示の拡大というかたちで進んでいました。
ヴィクター
ヴィクター・トーキング・マシン社(Victor Talking Machine Company)は、11月上旬のバッファロー地区でエヴェレット・M・ヴェスター(Everett M. Vestor, 生没年不明)を工場代表として配置し、現地販売体制を強めていました。さらに11月30日付の同時代報道では、当地でヴィクター・オルソフォニック(Victor Orthophonic)の売行きが良好で、ヴィクターのコンビネーション機とレコード需要も強いとされており、同社が年末商戦に向けて機械・レコードの両面で伸びていたことが分かります。
- https://elibrary.arcade-museum.com/classic/Music-Trade-Review/1926-83-20/22
- https://elibrary.arcade-museum.com/classic/Music-Trade-Review/1926-83-23/14
コロムビア
コロムビア・フォノグラフ社(Columbia Phonograph Co.)については、11月の資料から複数の具体的活動を確認できます。バッファローでは新しいコロムビア部門の開設に合わせて大規模なウィンドー展示が行われ、コロムビア・ミュージック・ショップ(Columbia Music Shop)は放送局WEBRを通じた午後番組を店内から送出していました。また、フランク・B・ウォーカー(Frank B. Walker, 1888–1963)は南部アーティスト録音のためアトランタを発っており、地方録音の継続も確認できます。さらに11月下旬には、ウィーン生まれの歌手エヴァ・レオーニ(Eva Leoni, 生没年不明)が同社への初録音を行ったと報じられており、同社が販促、放送、地方録音、新規アーティスト録音を同月に並行して進めていたことが分かります。
- https://elibrary.arcade-museum.com/classic/Music-Trade-Review/1926-83-20/22
- https://elibrary.arcade-museum.com/Music-Trade-Review/1926-83-22/7
ブランズウィック
ブランズウィック・バルク・コレンダー社(Brunswick-Balke-Collender Co.)は、11月13日号の広告で、8球式ラジオ受信機を組み込んだ「パナトロープ・アンド・ラジオーラ148-C」(Panatrope & Radiola 148-C)を前面に押し出し、音楽再生とラジオ受信を一体化した高級複合機市場を強く訴求していました。同じ号では、ブルース歌手ペギー・イングリッシュ(Peggy English, 生没年不明)がヴォカリオン(Vocalion)向けに今後1年間で24曲を録音する契約を結んだことも報じられています。さらに11月30日付のバッファロー報道では、当地のブランズウィック販売拠点の責任者交代が報じられており、同社が11月中に商品訴求と人員配置の両面を動かしていたことが確認できます。
- https://elibrary.arcade-museum.com/classic/Music-Trade-Review/1926-83-20/6
- https://elibrary.arcade-museum.com/classic/Music-Trade-Review/1926-83-20/46
- https://elibrary.arcade-museum.com/classic/Music-Trade-Review/1926-83-23/14
シーバーグ
J・P・シーバーグ・ピアノ社(J. P. Seeburg Piano Co.)は、フィラデルフィア建国150周年記念博覧会での展示が大きな成功を収めていたことを11月27日号で詳しく報じられています。展示では自動ピアノ、自動パイプ・オルガン、オーケストリオンなどのフルラインが示され、来場者は演奏そのものだけでなく、機械原理の説明にも強い関心を示しました。これはレコード発売とは異なる動きですが、1926年11月の音楽機械市場が、録音物販売だけでなく、自動演奏機械の大規模公開展示によっても拡張されていたことを示す重要な事例です。
ジェネット
スター・ピアノ社(Starr Piano Co.)のジェネット・レコード(Gennett Records)については、11月30日付クリーブランド報道から、同社支店の一階売場改装が完了し、新しいスター・フォノグラフ(Starr phonograph)とともに、ジェネット・レコードの売場と試聴設備が店内後方へ整理されたことが確認できます。ここでは単に商品を並べるのではなく、改装後の売場全体を通じて機械、レコード、ロール類の導線が再編されており、同社が年末販売期に向けて店頭構成を立て直していたことが分かります。
