1893年8月に録音された音楽
1893年8月は、経済不安のただ中で各国が制度とインフラを更新した月でした。アメリカ合衆国ではグロヴァー・クリーヴランド(Grover Cleveland, 1837–1908)が招集した特別会期の第53回アメリカ合衆国議会(53rd United States Congress)が8月7日に開会し、通貨・関税をめぐる政治議論が前面化しました。ヨーロッパではギリシャでコリントス運河(Corinth Canal)が8月6日に完成し、航路短縮という地理改変が現実化します。フランスではパリ警察規則(Paris Police Ordinance)にもとづく運転免許制度が8月14日に導入され、都市交通の管理が新段階に入りました。外交面ではベーリング海仲裁(Bering Sea Arbitration)の裁定が8月15日に公表され、ベーリング海(Bering Sea)におけるオットセイ保護と捕獲規制を国際枠組みとして位置づけます。月末にはシー・アイランズ・ハリケーン(Sea Islands hurricane)がアメリカ合衆国南東部を襲い、多数の死者を出す自然災害として記録されました。
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1893年8月の録音に関する情報のまとめ
1893年8月の録音史は、録音物そのものの「作品史」だけでなく、公開の場での再生実演と商業利用が社会に浸透していく局面として捉えられます。この時期、シカゴ万国博覧会(World’s Columbian Exposition)は会期中であり、来場者が新技術としてのフォノグラフ(phonograph)や関連機器に触れる環境が継続していました。博覧会のような大規模イベントは、録音・再生装置を「見世物」から「商品」へと押し出す導線になり、のちの録音産業の需要形成と結びついていきます。
シカゴ万国博覧会でのフォノグラフ展示と実演
シカゴ万国博覧会(World’s Columbian Exposition)は1893年5月1日–10月30日に開催され、会期中の8月も含めて、フォノグラフ(phonograph)をはじめとする音再生技術が来場者に提示される場でした。こうした博覧会空間では、録音機器の性能誇示だけでなく、反復再生による娯楽性や集客装置としての価値が可視化され、録音文化が「公共空間で消費されるメディア」として位置づけられていきます。
ベーリング海仲裁と国際規制の時代背景
ベーリング海仲裁(Bering Sea Arbitration)の裁定(1893年8月15日公表)は、海域資源の利用を国際的な規制として整える動きの一例です。同時代の録音・再生装置は、電気・通信・輸送と同様に国境を越えて普及していく商品であり、国際的なルール形成が進む世界の空気の中で、市場や流通の広域化が加速していきました。録音史の側から見ると、こうした「国際秩序の整備」が、のちに各国市場へ録音物が展開する前提条件を少しずつ整えていったことになります。
- https://en.wikipedia.org/wiki/Bering_Sea_Arbitration
- https://legal.un.org/riaa/cases/vol_xxviii/263-276.pdf
