1910年2月に録音された音楽
1910年2月の世界は、帝国政治の緊張と新しい大衆文化の拡大が同時に進んだ月でした。イギリスでは1909年12月総選挙の帰結が2月までに固まり、自由党275、保守党273、労働党40、アイルランド国民党82という拮抗した議会が成立しました。ハーバート・ヘンリー・アスクィス(Herbert Henry Asquith, 1852–1928)政権は少数与党として続投し、2月21日の国王演説では両院関係見直しが示されます。アメリカでは2月8日、ボーイスカウト・オブ・アメリカ(Boy Scouts of America)が法人化され、青少年組織の全国的整備が始まりました。アジアでは2月12日に清朝軍がラサへ進入し、ダライ・ラマ13世トゥプテン・ギャツォ(Thubten Gyatso, 1876–1933)はインドへ退避しました。エディンバラでは同月、ハロルド・ジャランド・スタイルズ(Harold Jalland Stiles, 1863–1946)が乳児の先天性肥厚性幽門狭窄に対する幽門筋切開術を計画的に実施しましたが、患者は術後まもなく死亡し、術式の定着は後年を待つことになります。文化面では2月19日にマンチェスター・ユナイテッド(Manchester United)の本拠オールド・トラッフォード(Old Trafford)が開場し、同日にはジュール・マスネ(Jules Massenet, 1842–1912)の歌劇『ドン・キショット』がモンテカルロで初演されました。
この月の確認されている録音:0曲
1910年2月の録音に関する情報のまとめ
1910年2月の録音市場では、ナショナル・フォノグラフ社(National Phonograph Company)がアンベローラ蓄音機とエジソン・アンベロール・レコードの販売強化を進め、公開演奏会、春の新譜告知、劇場音楽や朗読録音の高級商品化を同時に押し出していました。2月号の『エジソン・フォノグラフ・マンスリー』では、サラ・ベルナール(Sarah Bernhardt, 1844–1923)の独占録音、1910年4月発売予定新譜の案内、さらに外国録音を含むカタログ拡充方針が示されており、当時の録音産業が流行歌、軍楽、舞台音楽、朗読、外国語録音を横断しながら販路を拡大していたことが確認できます。
サラ・ベルナールの独占録音が発表される
1910年2月号でもっとも印象的なのは、サラ・ベルナール(Sarah Bernhardt, 1844–1923)がエジソン・レコードのために5点を録音したという告知です。誌面では『L’Aiglon』『Phèdre』『Cyrano de Bergerac』『La Samaritaine』『Les Bouffons』からの抜粋が挙げられ、舞台俳優の声そのものを保存・販売する高級朗読録音として大きく扱われました。2月時点では具体的な発売日までは明示されておらず、まずは独占契約と録音完了そのものが重要なニュースとして提示されています。
- https://www.worldradiohistory.com/Archive-All-Audio/Edison-Phonograph/Edison-Phonograph-Monthly-1910-Vol-8.pdf
- https://archive.org/details/edisonphonograph08moor
アンベローラ普及策として公開演奏会が重視される
1910年2月号は、アンベローラの音質や設計を紙面だけで説明するには限界があるとし、公開演奏会を最も有効な販促手段として推奨しました。誌面ではナッシュヴィルのO・K・ハウク・ピアノ社(O. K. Houck Piano Company)が、当地のオペラ上演に合わせて1日2回の演奏会を開き、新聞広告、郵送案内、作品解説冊子を組み合わせて集客している事例が紹介されています。録音物の販売が単なる店頭陳列から、体験型デモンストレーションへ移行していたことを示す資料です。
- https://www.worldradiohistory.com/Archive-All-Audio/Edison-Phonograph/Edison-Phonograph-Monthly-1910-Vol-8.pdf
- https://archive.org/details/edisonphonograph08moor
1910年4月発売予定新譜の告知
2月号には1910年4月発売予定の新譜案内も掲載され、当時のエジソン新譜編成の幅広さがよく分かります。そこにはアーヴィング・バーリン(Irving Berlin, 1888–1989)作の “That Mesmerizing Mendelssohn Tune”、ヴィクター・ハーバート(Victor Herbert, 1859–1924)楽団による『Babes in Toyland』抜粋、詩朗読 “Sheridan’s Ride” などが含まれていました。流行歌、舞台音楽、コミック物、朗読が同じ月次新譜群として並んでいる点は、1910年の録音カタログが娯楽の複数ジャンルを一体的に扱っていたことを示しています。
- https://www.worldradiohistory.com/Archive-All-Audio/Edison-Phonograph/Edison-Phograph-Monthly-1910-Vol-8.pdf
- https://archive.org/details/edisonphonograph08moor
2月刊行予定の総合カタログに海外アンベロールが組み込まれる
1910年初頭の案内では、2月刊行予定の新しい国内総合カタログに、イギリス、ドイツ、フランス、メキシコ、アルゼンチン、ポルトガル、フィリピンのアンベロール器楽録音を収載する方針が示されました。これは海外録音を補助的な特殊商品ではなく、国内市場向け常設カタログの一部として整理しようとする動きでした。エジソン陣営が英語圏外の録音を販路拡大の柱の一つとして認識していたことが読み取れます。
- https://www.worldradiohistory.com/Archive-All-Audio/Edison-Phonograph/Edison-Phonograph-Monthly-1910-Vol-8.pdf
- https://archive.org/details/edisonphonograph08moor
