1911年8月に録音された音楽
1911年8月は、航空・外交・制度改革・文化・環境保護・社会史の各分野で、後年まで参照される出来事が重なった月でした。8月1日にはハリエット・クインビー(Harriet Quimby, 生年異説あり–1912)がアメリカ合衆国で女性初の操縦士免許を取得し、航空史の節目となりました。8月3日にはウィリアム・ハワード・タフト(William Howard Taft, 1857–1930)政権がグレートブリテン及びアイルランド連合王国とフランス共和国との一般仲裁条約に署名し、国際紛争の平和的処理を拡大しようとしました。8月18日には1911年議会法(Parliament Act 1911)が裁可され、イギリスの立法秩序は大きく組み替えられました。8月21日にはタフトがニューメキシコ準州とアリゾナ準州の州昇格に向けた共同決議に署名し、同日にはルーヴル美術館(Musée du Louvre)で《モナ・リザ(Mona Lisa)》盗難が発覚しました。8月25日には北太平洋の毛皮アザラシ保護をめぐる国際条約体制が前進し、8月29日にはイシ(Ishi, 生年不明–1916)がカリフォルニア州で保護され、先住民史をめぐる長い議論の起点となりました。
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1911年8月の録音に関する情報のまとめ
1911年8月号の『エジソン・フォノグラフ・マンスリー(Edison Phonograph Monthly)』から確認できるのは、トーマス・A・エジソン社(Thomas A. Edison, Inc.)が夏枯れを前提にせず、秋商戦向け新譜、木製ホーン、外国語録音、店頭ウィンドウ展示を同時に押し出していたことです。とくに10月発売予定の新譜告知では、オペラ、流行歌、大学歌、軍楽、器楽小品が並び、既存のシリンダー市場を細分化して維持・拡張しようとする意図がはっきり見えます。加えて、外国語録音の販路拡張とアンベローラ(Amberola)の高級機訴求も目立ち、1911年8月時点でエジソン陣営が「夏の販促」と「秋の販売準備」を同時進行させていたことが確認できます。
10月発売予定の新譜発表
1911年8月号では、1911年9月25日発売予定として10月新譜が告知されています。アンベロール盤では、ボフミール・クリル楽団(Bohumir Kryl and His Band)によるジュゼッペ・ヴェルディ(Giuseppe Verdi, 1813–1901)《アッティラ(Attila)》の「Praise Ye」、エジソン・ライト・オペラ・カンパニー(Edison Light Opera Company)による《軍艦ピナフォア(H.M.S. Pinafore)》抜粋、ニッカボッカー・カルテット(Knickerbocker Quartet)による「Songs of Harvard」「Songs of Yale」、ニューヨーク・ミリタリー・バンド(New York Military Band)による「All Alone Medley」などが並びます。スタンダード盤でも「Unser Kaiserhaus March」「Wanted! A Harp Like the Angels Play」「In Vienna—Serenade」などが挙げられており、軍楽、流行歌、大学歌、ライト・オペラ、器楽合奏を一つの月次補遺に同居させる編成が確認できます。
- https://archive.org/download/edisonphonograph09moor/edisonphonograph09moor.pdf
- https://www.worldradiohistory.com/Archive-All-Audio/Edison-Phonograph/Edison-Phonograph-Monthly-1911-Vol-9.pdf
ミュージック・マスター・ホーンの販促
同号では、木製のミュージック・マスター・ホーン(Music Master Horn)が独立した販促記事として扱われています。本文では、オークまたはマホガニー、スプルース、象嵌仕様などの系統が示され、金属ホーンでは得にくい「柔らかさ」や「まろやかさ」を木製構造の利点として強調していました。すでに金属ホーンを使っている既存ユーザー向けに、交換部材や価格も細かく案内しており、1911年8月時点でエジソン側がシリンダー機の音響改善をまだ重要な商品課題として扱っていたことがわかります。
- https://archive.org/download/edisonphonograph09moor/edisonphonograph09moor.pdf
- https://www.worldradiohistory.com/Archive-All-Audio/Edison-Phonograph/Edison-Phonograph-Monthly-1911-Vol-9.pdf
外国語録音と移民市場への対応
1911年8月号は、外国語録音市場を「見落とされてきた分野」として明確に押し出しています。本文では、ドイツ語、フランス語、ヘブライ語、ハンガリー語、ノルウェー語、スウェーデン語、デンマーク語、ポーランド語、ハワイ語、ウェールズ語などの販促用印刷物を新たに用意したことが示され、さらに8月発売の外国盤として、英国向けアンベロール盤、英国向けスタンダード盤、ドイツ語アンベロール盤、スペイン語アンベロール盤、スペイン語スタンダード盤が列記されています。加えて、テキサス州の購買者からフランス語録音カタログを求める書簡が紹介されており、エジソン側が移民・外国語話者市場を実需のある販路として認識していたことが一次資料上で確認できます。
- https://archive.org/download/edisonphonograph09moor/edisonphonograph09moor.pdf
- https://www.worldradiohistory.com/Archive-All-Audio/Edison-Phonograph/Edison-Phonograph-Monthly-1911-Vol-9.pdf
アンベローラの販売動向
販売面では、カリフォルニア州元知事ヘンリー・T・ゲージ(Henry T. Gage, 1852–1924)が複数の「キャビネット型」機種を比較したうえでアンベローラ(Amberola)を選んだことが紹介されています。また、販売店側の報告として、ある注文40台のうち18台を2週間で売り切った事例も載っており、夏季であっても高価格帯のシリンダー機が動いていたことがわかります。誌面全体でも、夏のウィンドウ展示、郵送販促、劇場スライド広告などが強調されており、1911年8月が単なる閑散期ではなく、秋商戦前の実売と宣伝を同時に進める月として扱われていたと判断できます。
- https://archive.org/download/edisonphonograph09moor/edisonphonograph09moor.pdf
- https://www.worldradiohistory.com/Archive-All-Audio/Edison-Phonograph/Edison-Phonograph-Monthly-1911-Vol-9.pdf
