1920年1月に録音された音楽
1920年1月は、第一次世界大戦後の新秩序が制度として動き始める一方で、各地の社会不安や統制強化も目立った月でした。1月3日にはダウガフピルス(Daugavpils)の支配がボリシェヴィキ側から離れ、東欧の戦後秩序がなお流動的であることが示されました。1月8日にはアメリカ合衆国の1919年鉄鋼大争議(1919 Steel Strike)が終結し、戦後労働運動の後退が鮮明になりました。1月10日にはヴェルサイユ条約(Treaty of Versailles)が発効し、国際連盟(League of Nations)が正式に発足しました。アメリカ合衆国では1月2日にパーマー・レイド(Palmer Raids)が大規模に行われ、急進主義への取締りが強化されました。さらに1月17日にはアメリカ合衆国憲法第十八修正(Eighteenth Amendment to the United States Constitution)と国家禁酒法(National Prohibition Act)の施行により禁酒時代が始まり、1月2日開始のアメリカ合衆国第十四回国勢調査(Fourteenth Census of the United States)とあわせて、国家が社会を把握し統制する動きも強まっていました。
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1920年1月の録音に関する情報のまとめ
1920年1月の録音業界では、大手各社が販売網、広告、製品方式、組織再編をそれぞれ進め、戦後市場の再構築がはっきり見える段階に入っていました。コロムビア・グラフォフォン社(Columbia Graphophone Co.)は監査・販売体制を強化し、トーマス・A・エジソン社(Thomas A. Edison, Inc.)はジョバー会議と新録音発表を通じて販促を再調整しています。ジェネラル・フォノグラフ社(General Phonograph Corp.)は支社と人員を拡張し、エオリアン社(The Aeolian Company)はヴォカリオン(Vocalion)の横振れ盤を打ち出しました。さらにソノラ陣営では増資と社名変更が進み、チェイニー・トーキング・マシン社(Cheney Talking Machine Co.)は全国広告を開始し、パテ・フレール・フォノグラフ社(Pathé Frères Phonograph Co.)でも新製品を軸とした動きが見えています。
コロムビア
コロムビア・グラフォフォン社(Columbia Graphophone Co.)では、1月2日–3日にホテル・ペンシルヴァニアで監査部門の年次大会が開かれ、本社幹部も参加して部門運営を協議しました。さらに1月下旬にはピッツバーグで200人超のディーラーを集めた夕食会と音楽会を開き、1920年の大規模広告計画と販売サービス方針を示しています。
- https://elibrary.arcade-museum.com/classic/Music-Trade-Review/1920-70-3/37
- https://elibrary.arcade-museum.com/classic/Music-Trade-Review/1920-70-5/31
トーマス・A・エジソン
トーマス・A・エジソン社(Thomas A. Edison, Inc.)では、シカゴのコングレス・ホテルで中西部ジョバー会議が開かれ、工場幹部、広告担当者、ジョバーが販促強化策を検討しました。1月17日号では、セルゲイ・ラフマニノフ(Sergei Rachmaninoff, 1873–1943)がニュー・エジソン向けに録音したことも大きく報じられ、同社が高級芸術家の録音拡充を進めていたことが確認できます。
- https://elibrary.arcade-museum.com/classic/Music-Trade-Review/1920-70-2/44
- https://elibrary.arcade-museum.com/classic/Music-Trade-Review/1920-70-3/38
ブランズウィック
ブランズウィック=ボルク=コレンダー社(Brunswick-Balke-Collender Co.)では、1920年1月の業界誌でブランズウィック・レコード(Brunswick Records)の本格展開が打ち出され、レコード部門を市場に定着させる段階に入っていました。蓄音機メーカーとしての基盤に加え、1920年初頭にはレコード事業を独立した柱として押し出す構えが明確になっています。
- https://www.worldradiohistory.com/Archive-Talking-Machine/20s/Talking-Machine-1920-01.pdf
- https://mainspringpress.org/2023/08/15/gus-haenschen-the-brunswick-years-part-1-the-james-a-drake-interviews/
ジェネラル・フォノグラフ
ジェネラル・フォノグラフ社(General Phonograph Corp.)は、ミシガン州グランドラピッズに新支社を開き、重要地域での供給と協力体制を強めました。同月にはニュアーク工場の購買担当人事と、オーケー・レコード(Okeh Records)の記録部門販売管理を補強する人事も報じられており、販売網と製造体制の双方を拡張していたことがわかります。
- https://elibrary.arcade-museum.com/classic/Music-Trade-Review/1920-70-2/44
- https://elibrary.arcade-museum.com/classic/Music-Trade-Review/1920-70-3/37
エオリアン
エオリアン社(The Aeolian Company)は、1月中旬速報でヴォカリオン(Vocalion)の最初期横振れ盤を発表し、従来の縦振れ盤に加えて新方式の製品を前面に出しました。同じ記事では、新方式の普及に合わせた宣伝とディーラー向けサービスの継続、さらに新規専属歌手の確保も報じられており、1920年1月は同社の転換点の一つでした。
ソノラ
ソノラ・フォノグラフ・セールス社(Sonora Phonograph Sales Co.)では、1月20日の株主総会に向けて資本金増額案が示され、資本面での拡張が進められていました。さらに1月17日号では、ソノラ・フォノグラフ社(Sonora Phonograph Corporation)の社名をソノラ社(Sonora, Inc.)へ変更したことと、販売会社側でも社名変更案が審議されることが報じられ、組織再編が同月の重要事項になっていました。
- https://elibrary.arcade-museum.com/classic/Music-Trade-Review/1920-70-2/25
- https://elibrary.arcade-museum.com/classic/Music-Trade-Review/1920-70-3/38
チェイニー
チェイニー・トーキング・マシン社(Cheney Talking Machine Co.)は、1920年1月号の一般雑誌を使った全国広告を開始し、従来と異なる高級感のある広告表現で市場に打って出ました。記事では、家具的な室内演出ではなく機械そのものを主役にした油彩風表現が強調されており、同社が広告戦略の差別化を重視していたことが確認できます。
パテ
パテ・フレール・フォノグラフ社(Pathé Frères Phonograph Co.)では、マキシム・パテ(Maxime Pathé, 1890–?)が訪米し、ブルックリン本社で新しいパテ・アクチュエル(Pathé Actuelle)を確認しながら、アメリカ合衆国内の状況を視察していました。1月17日号ではこの訪米が大きく扱われており、同社が新製品を軸に北米市場での立て直しと観察を進めていたことがうかがえます。
