1914年11月に録音された音楽
1914年11月は、第一次世界大戦の戦域拡大と、金融・科学・言論の新しい制度や観測が並行した月でした。11月1日にはコロネル沖海戦(Battle of Coronel)が起こり、ドイツ帝国海軍がイギリス海軍に大きな打撃を与えました。11月7日には膠州湾租借地青島の戦い(Siege of Tsingtao)が終結し、日本とイギリスの連合軍がドイツ帝国の拠点青島を占領しました。11月5日にはイギリスとフランスがオスマン帝国(Ottoman Empire)に宣戦布告し、同月中旬にはオスマン帝国側で聖戦布告が出され、戦争は中東とイスラーム世界を巻き込む段階へ進みました。その一方で、アメリカ合衆国では11月16日に連邦準備銀行(Federal Reserve Banks)が業務を開始し、近代的な中央銀行制度の運用が始まりました。文化と言論の面では11月7日に『ザ・ニュー・リパブリック』(The New Republic)が創刊され、科学の面では同じ時期に水星の日面通過が観測されており、戦時下でも制度形成と知的活動は止まりませんでした。
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1914年11月の録音に関する情報のまとめ
1914年11月の録音業界では、年末商戦に向けた新譜供給、蓄音機の広告強化、店頭実演や学校利用の拡大が同時に進んでいました。当月の同時代資料上で活動を直接確認できるのは、トーマス・アルバ・エジソン社(Thomas A. Edison, Inc.)、ヴィクター・トーキング・マシン社(Victor Talking Machine Co.)、コロムビア・グラフォフォン社(Columbia Graphophone Co.)です。トーマス・アルバ・エジソン社(Thomas A. Edison, Inc.)は録音工程そのものを販促材料として示し、ヴィクター・トーキング・マシン社(Victor Talking Machine Co.)は年末広告とダンス音楽販売を強め、コロムビア・グラフォフォン社(Columbia Graphophone Co.)は新譜案内と学校行事での機械利用を広げていました。11月の資料から見えるのは、録音物の発売だけでなく、家庭・店舗・学校へ再生機器を浸透させる企業活動が強まっていたことです。
エジソン
トーマス・アルバ・エジソン社(Thomas A. Edison, Inc.)については、『エジソン・フォノグラフ・マンスリー』(Edison Phonograph Monthly)1914年11月号に、ニューヨーク第五街79番地の録音室で行われる録音工程の詳しい説明が掲載されていました。そこでは、歌手の立ち位置、管弦楽の配置、白色蝋原盤の使用、削りくずを吸引する装置などが具体的に紹介されており、同社が録音技術そのものを販売促進に用いていたことが確認できます。また同号には、ブルー・アンベロールの戦時流行曲「イッツ・ア・ロング・ロング・ウェイ・トゥ・ティペラリー」(It’s a Long, Long Way to Tipperary)に関する記事もあり、当月の話題性と結び付けてシリンダーを訴求していました。
- https://www.worldradiohistory.com/Archive-All-Audio/Edison-Phonograph/Edison-Phonograph-Monthly-1914-Vol-12.pdf
- https://archive.org/details/edisonphonograph12moor
ヴィクター
ヴィクター・トーキング・マシン社(Victor Talking Machine Co.)については、『ザ・トーキング・マシン・ワールド』(The Talking Machine World)1914年11月号で、11月の新聞広告がクリスマス向けのヴィクトローラ選択とダンス音楽需要を主題に組まれていたことが確認できます。さらに、12月新譜は11月28日発売予定とされ、同社は販売店向けにクリスマス用車内広告も配布していました。また同号には、同社のレコード増産に向けた新しい研磨工場と発送設備の拡張、ならびにダンス・レコードを前面に出した店頭ディスプレーが大きな集客を生んだ事例も載っており、当月のヴィクター・トーキング・マシン社(Victor Talking Machine Co.)が広告、供給体制、店頭演出を一体で動かしていたことがわかります。
コロムビア
コロムビア・グラフォフォン社(Columbia Graphophone Co.)については、『ザ・トーキング・マシン・ワールド』(The Talking Machine World)1914年11月号に12月向けレコード・ブレティンが掲載されており、エミー・デスティン(Emmy Destinn, 1878–1930)を含む新譜案内が確認できます。また、地方支店の報告では、販売店が休日需要を見込んで在庫を積み増し、ダンス・レコード需要が冬季の社交再開とともに再び高まっていたことが述べられています。さらに、メリーランド州ローレルの学校催事ではコロムビア・プリンセス・グラフォノーラ(Columbia Princess Grafonola)が使われ、学校娯楽の補助として好評を得たと報じられており、同社製品が家庭外の教育空間にも入り込んでいたことが確認できます。
