1920年8月に録音された音楽
1920年8月は、戦後秩序の再編と大衆文化の拡大が同時に進んだ月でした。8月10日にはセーヴル条約(Treaty of Sèvres)が調印され、オスマン帝国領をめぐる戦後処理の枠組みが示されました。東ヨーロッパでは8月12日–25日のワルシャワの戦いでポーランド側が赤軍の攻勢を退け、ポーランド=ソビエト戦争の帰趨を左右しました。アメリカ合衆国ではテネシー州批准を受けて、8月26日にベインブリッジ・コルビー(Bainbridge Colby, 1869–1950)がアメリカ合衆国憲法第十九修正(Nineteenth Amendment to the United States Constitution)の成立を認証しました。文化面では、8月14日にアントワープオリンピック(Antwerp 1920 Olympic Games)が開幕し、8月22日には、フーゴー・フォン・ホーフマンスタール(Hugo von Hofmannsthal, 1874–1929)の舞台作品『イェーダーマン』(Jedermann)を、マックス・ラインハルト(Max Reinhardt, 1873–1943)の演出で上演するかたちで、ザルツブルク音楽祭(Salzburger Festspiele)が始まりました。さらに8月27日には、アルゼンチン共和国ブエノスアイレスのテアトロ・コリセオ(Teatro Coliseo)から、リヒャルト・ワーグナー(Richard Wagner, 1813–1883)の楽劇『パルジファル』(Parsifal)が放送され、アルゼンチン共和国における初期ラジオ放送史の画期として記録されています。
この月の確認されている録音:0曲
1920年8月の録音に関する情報のまとめ
1920年8月の録音関連企業の動きは、当月録音そのものよりも、新譜発表、店頭実演、機種広告、出荷開始、販売網整備として確認できるものが多く見られます。そのなかで、録音日が日付付きで確認できる重要事例として、ゼネラル・フォノグラフ社(General Phonograph Corporation)のオーケー・レコード(OKeh Records)で行われたメイミー・スミス(Mamie Smith, 1883–1946)の録音があります。一方、ヴィクター・トーキング・マシン社(Victor Talking Machine Company)、コロムビア・グラフォフォン社(Columbia Graphophone Company)、ブランズウィック=ボルク=コレンダー社(Brunswick-Balke-Collender Company)、トーマス・A・エジソン社(Thomas A. Edison, Inc.)、パテ・フレール・フォノグラフ社(Pathé Frères Phonograph Company)、スター・ピアノ社(The Starr Piano Company)、ソノラ・フォノグラフ社(Sonora Phonograph Company)、レミントン・フォノグラフ・コーポレーション(Remington Phonograph Corporation)では、8月の販売・宣伝活動を同時代資料で確認できます。
オーケー
1920年8月10日、ゼネラル・フォノグラフ社(General Phonograph Corporation)のオーケー・レコード(OKeh Records)で、メイミー・スミス(Mamie Smith, 1883–1946)が「Crazy Blues」と「It’s Right Here For You」を録音しました。さらに8月15日号の『The Talking Machine World』では、フィラデルフィア・ショーケース社(Philadelphia Show Case Company)がオーケー・レコード(OKeh Records)の卸売業者として広告を出しており、同月の販売網整備も確認できます。
- https://www.loc.gov/static/programs/national-recording-preservation-board/documents/CrazyBlues.pdf
- https://www.worldradiohistory.com/Archive-Talking-Machine/20s/Talking-Machine-1920-08.pdf
ヴィクター
1920年8月31日付広告では、ヴィクター・トーキング・マシン社(Victor Talking Machine Company)の9月レコードが翌日の夜8時30分にヴィクトローラ部門で初披露されると告知されています。月末の段階で、同社が9月向け新譜を店頭イベントとして公開する体制を整えていたことが確認できます。
コロムビア
1920年8月23日付広告では、コロムビア・グラフォフォン社(Columbia Graphophone Company)の補遺付き月報が、蓄音機向けとして大規模な新譜群であることをうたい、あわせて「どの標準型蓄音機でも再生できる」点を強調していました。8月20日付の別広告でも9月分のコロムビア・レコード(Columbia Records)発売が告知されており、同社が秋向け新譜の流通を8月中に進めていたことが分かります。
- https://newspapers.library.in.gov/?a=d&d=RPD19200823.1.5
- https://newspapers.library.in.gov/?a=d&d=LCT19200820.1.8
ブランズウィック
1920年8月5日付広告では、ブランズウィック=ボルク=コレンダー社(Brunswick-Balke-Collender Company)の「第4回発売分」が到着したと告知されています。8月の時点で、同社が継続的な発売サイクルを前提に新譜供給を進めていたことが確認できます。
エジソン
1920年8月19日付広告では、トーマス・A・エジソン社(Thomas A. Edison, Inc.)のニュー・エジソン・リ=クリエーション(New Edison Re-Creations)のダンス曲が前面に出され、その中に「Afghanistan — Fox Trot」番号50658も掲げられていました。8月の同社は、クラシックよりもダンス需要に応じた実用的な販促を強めていたことが読み取れます。
パテ
1920年8月19日付広告では、パテ・フレール・フォノグラフ社(Pathé Frères Phonograph Company)のモデル7が、外装材、金属部、汎用性を含む特徴とともに宣伝されています。8月の同社は、レコード単体よりも機械そのものの魅力を前面に出して市場拡大を図っていたと見てよいです。
スター/ジェネット
1920年8月13日付広告では、スター・ピアノ社(The Starr Piano Company)が「Starr-played」によるジェネット・レコード(Gennett Records)の再現性を訴えています。8月27日付広告でも新しいジェネット・レコード(Gennett Records)を聴くよう来店を促しており、同社が8月を通じて試聴型の販売促進を続けていたことが確認できます。
- https://newspapers.library.in.gov/?a=d&d=IPT19200813.1.17
- https://newspapers.library.in.gov/?a=d&d=IPT19200827.1.3
ソノラ
1920年8月15日号の『The Talking Machine World』では、ソノラ・フォノグラフ社(Sonora Phonograph Company)の看板がロングエーカー・スクエア(Longacre Square)に最近設置され、大きな注目を集めていると報じられています。8月の同社は、都市景観のなかで強い視認性を持つ屋外広告を用い、ブランド認知を広げていたことが確認できます。
レミントン
1920年8月15日号の『The Talking Machine World』では、レミントン・フォノグラフ・コーポレーション(Remington Phonograph Corporation)の製品がブルックリン工場から出荷され、販売店に届き始めていると報じられています。これは同社が8月時点で量産品の実流通段階に入っていたことを示す記録です。
