1929年5月に録音された音楽
1929年5月は、医療安全、映画文化、航空技術、都市博覧会、選挙制度の転換が同時に可視化した月でした。5月15日、アメリカ合衆国ではクリーブランド・クリニック(Cleveland Clinic)の大惨事が起こり、ニトロセルロース系エックス線フィルムの危険性が広く認識されました。5月16日には、ハリウッド・ルーズベルト・ホテル(Hollywood Roosevelt Hotel)で第1回アカデミー賞(Academy Awards)が開かれ、映画産業の制度化とトーキー時代の定着が象徴されました。5月中旬には飛行船グラーフ・ツェッペリン号(LZ 127 Graf Zeppelin)がフランスのキュエールで緊急着陸し、長距離航空の可能性と脆弱さを同時に示しました。スペインでは5月19日にバルセロナ国際博覧会(Exposición Internacional de Barcelona)の開会式が行われ、都市整備と国際展示が強く結びつきました。さらにイギリスでは5月30日の総選挙が、女性が男性と同条件で参加した最初の総選挙となり、その結果、ラムゼイ・マクドナルド(Ramsay MacDonald, 1866–1937)率いる労働党(Labour Party)が庶民院(House of Commons)第一党となりました。
この月の確認されている録音:0曲
1929年5月の録音に関する情報のまとめ
1929年5月の同時代業界資料では、録音関連企業の主力が蓄音機単体からラジオ受信機やラジオ・フォノグラフ結合機へ移っていたことが明瞭に確認できます。5月25日付の『ミュージック・トレード・レビュー』(Music Trade Review)では、コロムビア・フォノグラフ社(Columbia Phonograph Co.)、トーマス・A・エジソン社(Thomas A. Edison, Inc.)、ソノラ・フォノグラフ社(Sonora Phonograph Co., Inc.)がシカゴのホテル展示でそろってラジオと結合機を前面に出していました。5月号の『ラジオ・リテイリング』(Radio Retailing)でも、エジソン系やヴィクター系の販売・組織再編が確認でき、当月の業界はレコードそのものの供給だけでなく、再生機器と流通網の再編を中心に動いていたことが読み取れます。
コロムビア
5月25日付の『ミュージック・トレード・レビュー』(Music Trade Review)では、コロムビア・フォノグラフ社(Columbia Phonograph Co.)がブラックストーン・ホテル(Blackstone Hotel)に展示を設け、蓄音機、ラジオ・フォノグラフ結合機、ラジオ、レコードの完備した製品群を示すと報じられています。1929年5月のコロムビアは、レコード会社としてだけでなく、受信機と再生機を一体化した家庭娯楽機器全体を扱う企業として市場に出ていました。
エジソン
同じ5月25日付の『ミュージック・トレード・レビュー』(Music Trade Review)では、トーマス・A・エジソン社(Thomas A. Edison, Inc.)がコングレス・ホテル(Congress Hotel)、スティーヴンス・ホテル(Stevens Hotel)、ブラックストーン・ホテル(Blackstone Hotel)の複数会場に展示を配置し、エジソン製ラジオとラジオ・フォノグラフ結合機の完備した製品群を公開すると記されています。さらに5月号の『ラジオ・リテイリング』(Radio Retailing)では、エジソン・ディストリビューティング・コーポレーション(Edison Distributing Corporation)がボストンとニューヘイヴンに新支店を開設したことが報じられており、当月のエジソンでは製品展示と販売網拡張が並行して進んでいました。
- https://elibrary.arcade-museum.com/classic/Music-Trade-Review/1929-88-21/29
- https://www.worldradiohistory.com/Archive-Radio-Retailing/20s/Radio-Retailing-1929-05.pdf
ソノラ
5月25日付の『ミュージック・トレード・レビュー』(Music Trade Review)によれば、ソノラ・フォノグラフ社(Sonora Phonograph Co., Inc.)はスティーヴンス・ホテル(Stevens Hotel)で大規模展示を行い、ラジオ受信機、ラジオ・メロドン(Radio Melodon)、メロドン(Melodon)、蓄音機に加えて、新しいスクリーン・グリッド式ラジオ2機種を披露するとされていました。1929年5月のソノラは、蓄音機専業企業というより、ラジオ統合型の音楽・娯楽機器メーカーとして自社を位置づけていたことが分かります。
- https://elibrary.arcade-museum.com/classic/Music-Trade-Review/1929-88-21/29
- https://www.worldradiohistory.com/Archive-Radio-Retailing/20s/Radio-Retailing-1929-05.pdf
ヴィクター
5月号の『ラジオ・リテイリング』(Radio Retailing)では、ラジオ=ヴィクター・コーポレーション・オブ・アメリカ(Radio-Victor Corporation of America)の役員構成の中に、ヴィクター・トーキング・マシン部門(Victor Talking Machine Division)が置かれていたことが確認できます。1929年5月の段階で、ヴィクター系事業はラジオ側と蓄音機側を統合した販売・管理体制へ移っており、録音物の販売もその新体制の中で扱われていました。
スター・ピアノ
5月25日付の『ミュージック・トレード・レビュー』(Music Trade Review)では、スター・ピアノ社(Starr Piano Co.)がドラケ・ホテル(Drake Hotel)で新型の小型グランド・ピアノとスター・ラジオ・キャビネットを展示すると報じられています。5月号の『ラジオ・リテイリング』(Radio Retailing)にも同社名が掲載されており、1929年5月のスター・ピアノ社では、録音関連事業を含む既存の音楽商品群に加えて、ラジオ家具・筐体分野への比重が高まっていました。
- https://elibrary.arcade-museum.com/classic/Music-Trade-Review/1929-88-21/29
- https://www.worldradiohistory.com/Archive-Radio-Retailing/20s/Radio-Retailing-1929-05.pdf
