1920年6月に録音された音楽
1920年6月は、第一次世界大戦後の国際秩序が具体的な境界線と政治日程として固まり始めた月でした。6月4日にはハンガリーと連合国・連合国側諸国の間でトリアノン条約(Treaty of Trianon)が調印され、旧ハンガリー王国の領域と国際的地位が大きく変化しました。アメリカ合衆国では6月8日–12日の共和党全国大会(Republican National Convention)でウォレン・G・ハーディング(Warren G. Harding, 1865–1923)とカルヴィン・クーリッジ(Calvin Coolidge, 1872–1933)が正副大統領候補に選ばれ、6月28日にはサンフランシスコで民主党全国大会(Democratic National Convention)が始まりました。ヨーロッパでは6月15日に北シュレースヴィヒ(North Schleswig)がデンマーク王国へ復帰し、同日にはデイム・ネリー・メルバ(Dame Nellie Melba, 1861–1931)の無線歌唱放送が広域で受信され、放送文化史上の象徴的事件となりました。さらに6月30日にはベルリンで第一回国際ダダ見本市(First International Dada Fair)が始まり、戦後芸術の急進化も可視化されました。
この月の確認されている録音:0曲
1920年6月の録音に関する情報のまとめ
1920年6月の録音業界では、月半ばの『トーキング・マシン・ワールド』(The Talking Machine World)6月15日号に各社の新譜案内や業界動向が載り、夏向け市場への切り替えが進んでいました。同時に、アメリカ議会図書館(Library of Congress)の録音日データや、アラン・サットン(Allan Sutton)によるディスコグラフィーからは、ヴィクター・トーキング・マシン社(Victor Talking Machine Co.)、コロムビア・グラフォフォン社(Columbia Graphophone Co.)、エオリアン社(The Aeolian Company)のヴォカリオン(Vocalion)が、この月に新録音または新譜展開を続けていたことが確認できます。内容面では、流行歌、舞台歌、ダンス音楽、声楽盤が並行して動いており、1920年6月が大衆歌謡と家庭向け娯楽市場の拡大期にあったことが読み取れます。
ヴィクター
アメリカ議会図書館(Library of Congress)の「Jukebox Day by Day」では、1920年6月9日にヴィクター・トーキング・マシン社(Victor Talking Machine Co.)がピアレス・カルテット(Peerless Quartet)による「Drifting」Victor 18679 と「Swanee」Victor 18688 を録音したことが確認できます。「Swanee」はジョージ・ガーシュウィン(George Gershwin, 1898–1937)作曲の流行歌であり、同社が1920年6月の時点で新しい通俗歌市場を積極的に扱っていたことが分かります。さらにアメリカ議会図書館(Library of Congress)の録音史解説では、ジョン・フィリップ・スーザ(John Philip Sousa, 1854–1932)の新作「Who’s Who in Navy Blue」もヴィクター・トーキング・マシン社(Victor Talking Machine Co.)で1920年6月に録音されたことが示されており、同社が流行歌と愛国的レパートリーを並行して制作していたことも確認できます。
- https://www.loc.gov/collections/national-jukebox/about-this-collection/jukebox-day-by-day/?date=june+09
- https://blogs.loc.gov/now-see-hear/2020/05/sousa-and-the-talking-machine/
コロムビア
アメリカ議会図書館(Library of Congress)の「Jukebox Day by Day」では、1920年6月28日にコロムビア・グラフォフォン社(Columbia Graphophone Co.)がバート・ウィリアムズ(Bert Williams, 1874–1922)の「Save a little dram for me」Columbia A2979 を録音したことが確認できます。この録音は、同社が6月末の時点で舞台芸人録音を継続していたことを示します。また、同月の市場ではローザ・ポンセル(Rosa Ponselle, 1897–1981)の声楽盤 Columbia 78920「Values」も確認でき、コロムビア・グラフォフォン社(Columbia Graphophone Co.)が通俗芸能と本格的声楽の両面を並行して展開していたことが分かります。
- https://www.loc.gov/collections/national-jukebox/about-this-collection/jukebox-day-by-day/?date=june+28
- https://www.45cat.com/78rpm/record/78920
- https://www.worldradiohistory.com/Archive-Talking-Machine/20s/Talking-Machine-1920-06.pdf
ヴォカリオン
エオリアン社(The Aeolian Company)のヴォカリオン(Vocalion)は、アラン・サットン(Allan Sutton)の『The Vocalion Discography』で、Vocalion 14059「I’d Love to Fall Asleep and Wake in My Mammy’s Arm / My Sahara Rose」、14060「Rose of Washington Square / Sunny Tennessee」、14061「Barkin’ Dog Blues / Laughing Hyena」、14062「Just Like a Ray of Sunshine / Sudan」がいずれも1920年6月発売として整理されています。演奏者にはピアレス・カルテット(Peerless Quartet)、ヤークス・ダンス・オーケストラ(Yerkes’ Dance Orchestra)、ノヴェルティ・ファイヴ(Novelty Five)が含まれており、同社が1920年6月にダンス音楽、流行歌、コミカルな器楽曲をまとめて市場へ出していたことが確認できます。
- https://mainspringpress.org/wp-content/uploads/2026/01/VOCALION-14000_ed2-v3.pdf
- https://www.worldradiohistory.com/Archive-Talking-Machine/20s/Talking-Machine-1920-06.pdf
