1916年5月に録音された音楽
1916年5月は、第一次世界大戦の長期化が政治、外交、社会制度、国境地帯の緊張を同時に押し広げた月でした。アイルランドではイースター蜂起(Easter Rising)後の処刑が5月3日–12日に続き、自治をめぐる世論が大きく動きました。グレートブリテン及びアイルランド連合王国(United Kingdom of Great Britain and Ireland)では夏時間法(Summer Time Act 1916)が成立し、5月21日から時間制度が変更され、同月には兵役法(Military Service (Session 2) Act 1916)によって既婚男性への徴兵拡大も進みました。外交面では、グレートブリテン及びアイルランド連合王国(United Kingdom of Great Britain and Ireland)とフランス共和国(French Republic)がサイクス・ピコ協定(Sykes–Picot Agreement)を5月9日–16日にまとめ、オスマン帝国(Ottoman Empire)領分割の構想を具体化しました。北米では5月5日のグレン・スプリングス襲撃(Glenn Springs Raid)がアメリカ合衆国(United States of America)とメキシコ合衆国(United Mexican States)の緊張を高め、5月31日にはユトランド沖海戦(Battle of Jutland)が始まり、世界最大級の海戦が展開されました。
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1916年5月の録音に関する情報のまとめ
現存する1916年5月の当月資料で明確に確認できる録音関連企業の動きは、トーマス・A・エジソン社(Thomas A. Edison, Inc.)を中心とするシリンダー事業の販売拡大、店頭実演の強化、地方販売会社による需要開拓、そして卸売体制の再編です。ヴィクター・トーキング・マシン社(Victor Talking Machine Co.)やコロムビア・グラフォフォン社(Columbia Graphophone Co.)については、1916年5月その月の企業活動を直接説明する一次記述を、現時点で確認できる資料上では十分に確認できませんでした。そのため、以下では1916年5月の資料で活動を確認できた企業のみを挙げます。
トーマス・A・エジソン社
トーマス・A・エジソン社(Thomas A. Edison, Inc.)の1916年5月号は、シリンダー事業を再活性化するための販売施策を明確に打ち出しています。同号では、毎月25日を新譜発売日に合わせた「ブルー・アンベロール・デー」と定め、全国の販売網で継続的な新譜需要を作る方針が示されました。あわせて、年初から4月15日までに153店、直近1か月だけで65店の新規アンベローラ取扱店が加わったとされ、1916年春の時点で取扱店網がなお拡大していたことが分かります。録音面では、後年のディスコグラフィ資料により、同社原盤に基づく録音がニューヨークで5月2日、4日、5日、10日、16日、17日、19日に行われていたことが確認でき、同月の営業活動と原盤制作が並行して進んでいたことが分かります。
- https://www.worldradiohistory.com/Archive-All-Audio/Edison-Phonograph/Edison-Phonograph-Monthly-1916-Vol-14.pdf
- https://archive.org/stream/edisonphonograph14moor/edisonphonograph14moor_djvu.txt
- https://adp-assets.library.ucsb.edu/edison_4m-cyls.pdf
ヴァーノン・ミュージック
ロサンゼルスのヴァーノン・ミュージック社(Vernon Music Company)は、1916年5月号で、実演販売を継続的に行う地方販売会社として紹介されています。同社は毎晩コンサートを開き、店内に約70脚の椅子を並べ、各席にカタログを置き、来場者の希望したレコードをその場で再生する方式を採っていました。記事では、この実演を通じて125ドルのアンベローラを2台販売したとされており、1916年5月の西海岸市場で、シリンダー販売が店頭実演と密接に結びついていたことを示しています。
- https://www.worldradiohistory.com/Archive-All-Audio/Edison-Phonograph/Edison-Phonograph-Monthly-1916-Vol-14.pdf
- https://archive.org/stream/edisonphonograph14moor/edisonphonograph14moor_djvu.txt
ライダー・ミュージック
オクラホマ州ポーフスカのライダー・ミュージック社(Ryder Music Company)は、1916年5月号でホーム・レコーディング需要を伝える販売会社として取り上げられています。記事によれば、同社のオセージ顧客の中には、自作録音を大きなトランク二つから三つ分も持つ者がおり、無記録シリンダーを一度に50本購入する例もありました。また、既製レコードの人気曲として「ケイシー・ジョーンズ(Casey Jones)」「セーリング・ダウン・ザ・チェサピーク・ベイ(Sailing Down the Chesapeake Bay)」「アンダー・ザ・ダブル・イーグル・マーチ(Under the Double Eagle March)」「ウェイティング・フォー・ザ・ロバート・E・リー(Waiting for the Robert E. Lee)」などが挙げられており、1916年5月のインディアン準州周辺で、自家録音需要と市販レコード需要が並行していたことが確認できます。
- https://www.worldradiohistory.com/Archive-All-Audio/Edison-Phonograph/Edison-Phonograph-Monthly-1916-Vol-14.pdf
- https://archive.org/stream/edisonphonograph14moor/edisonphonograph14moor_djvu.txt
ダイヤモンド・ディスク・ディストリビューティング社
ロサンゼルスでは、サザン・カリフォルニア・ミュージック社(Southern California Music Co.)がそれまで扱っていた卸売業務を、ダイヤモンド・ディスク・ディストリビューティング社(Diamond Disc Distributing Co.)が引き継ぐことが1916年5月号で告知されています。記事は、この再編がエジソン・ダイヤモンド・アンベローラ蓄音機とブルー・アンベロール・レコードの流通を含むものであることを示しており、西海岸のシリンダー流通が同月の時点で再編過程にあったことが分かります。なお、新組織の担当者として、オーソン・A・ラヴジョイ(Orson A. Lovejoy, 生没年不明)の名が記されています。
- https://www.worldradiohistory.com/Archive-All-Audio/Edison-Phonograph/Edison-Phonograph-Monthly-1916-Vol-14.pdf
- https://archive.org/stream/edisonphonograph14moor/edisonphonograph14moor_djvu.txt
