1891年6月に録音された音楽

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1891年6月に録音された音楽

1891年6月は、帝国と資源、通信と大衆文化が同時に動いた月でした。アフリカでは大ブリテン及びアイルランド連合王国(United Kingdom of Great Britain and Ireland)とポルトガル王国(Kingdom of Portugal)が1891年英葡条約(Anglo-Portuguese Treaty of 1891)を締結し、中央・東部アフリカの勢力圏と境界の取り決めが進みます。ユーラシアではロシア帝国のアレクサンドル3世(Alexander III, 1845–1894)の後援のもと、シベリア横断鉄道(Trans-Siberian Railway)の建設が本格化し、大陸規模の輸送網構想が具体化しました。技術面ではアメリカ合衆国で交流送電の長距離実験が行われ、電力インフラの近代化が加速します。文化面ではポール・ゴーギャン(Paul Gauguin, 1848–1903)がタヒチ島のパペーテに到着し、植民地世界を背景にした創作へ踏み出しました。また、イギリスのストランド・マガジン(The Strand Magazine)でアーサー・コナン・ドイル(Arthur Conan Doyle, 1859–1930)のシャーロック・ホームズが登場し、印刷媒体が生む国際的な娯楽の回路が広がっていきます。

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1891年6月の録音に関する情報のまとめ

1891年6月の録音史は、「現存する録音そのもの」よりも、「録音と再生を支える機械・事業体制が整っていく過程」を史料で追いやすい時期です。トーマス・アルバ・エジソン(Thomas Alva Edison, 1847–1931)のフォノグラフ特許(1891年6月9日付)に代表される装置改良、ノース・アメリカン・フォノグラフ・カンパニー(North American Phonograph Company)系の事業運営の変化、そしてコロンビア・フォノグラフ・カンパニー(Columbia Phonograph Company)のような地域会社が娯楽用の円筒録音を事業として拡大していく流れが重なります。一方で、1891年6月と月単位で厳密に日付が確定する「商用円筒録音」の網羅的な一覧は、公開アーカイブ上では資料上確認できず、月単位の断定は避ける必要があります。

エジソン

1891年6月9日、エジソンはフォノグラフに関するアメリカ合衆国特許第453,741号(United States Patent No. 453,741)の特許付与を受けています。この種の改良は、録音(記録)と再生(読取)を同一機構の中で扱う設計思想を強め、現場の運用(録音を作る側と聴かせる側)を安定させる方向に働きました。1891年6月の「録音」に直接ひもづく出来事として、少なくとも特許史料で日付が確定できるトピックです。

コインスロット

1891年前後の段階で、エジソン・フォノグラフ・ワークス(Edison Phonograph Works)がコインスロット式フォノグラフ向けに音楽円筒を供給していたことは、アメリカ合衆国議会図書館(Library of Congress)の概説で確認できます。これは「録音物が機械と結びついて反復消費される」形を早い段階で押し広げた動きで、のちの娯楽機械としてのフォノグラフ普及を先取りする要素でした。1891年6月に個別タイトルまで特定して列挙できる一次資料は、今回参照した範囲では未確認ですが、1891年前半に成立していた利用形態として位置づけられます。

コロンビア

コロンビア・フォノグラフ・カンパニー(Columbia Phonograph Company)は1889年–1896年の録音を対象にしたディスコグラフィ資料が公開されており、同社が早い時期から娯楽録音の制作・販売を進めたことが確認できます。また、ティム・ブルックス(Tim Brooks, 生没年不明)による研究論文は、同社の1890年代の事業が録音産業の形成に持った意味を論じています。1891年6月単独の「録音日」まで確定できる情報は、今回参照した公開資料だけでは資料上確認できませんが、1891年の時点で同社が録音事業を推進していたという大枠は複数資料で裏づけられます。

アーカイブ

1891年を含む初期の円筒録音は、現存点数が限られるうえ、同一題目でも複数のテイクや複製経路が生じやすく、のちの時代の音盤に比べて来歴の特定が難しい資料群です。カリフォルニア大学サンタバーバラ校図書館(University of California, Santa Barbara Library)のジョン・レヴィン・コレクション(John Levin Collection)の紹介では、こうした初期音源が研究対象として扱われ、保存・整理と公開が進められてきたことが確認できます。また、アメリカ合衆国議会図書館(Library of Congress)の概説は、円筒フォノグラフの歴史的発展と利用形態をたどるなかで、初期録音の位置づけを示しています。1891年6月の録音史は、このようなアーカイブの蓄積を背景に、装置・事業・現存資料の三つの側面から輪郭を描ける時期だと言えます。