1892年1月に録音された音楽
1892年1月は、人の移動と近代社会の摩擦が可視化された月でした。1892年1月1日、アメリカ合衆国でエリス島移民検査場(Ellis Island Immigration Station)が業務を開始し、最初に手続きを受けたのがアニー・ムーア(Annie Moore, 1874–1924)でした。一方で1月7日、チョクトー・ネーション(Choctaw Nation)のクレブス近郊でオセージ石炭鉱業会社第11鉱山(Osage Coal and Mining Company Mine No. 11)の爆発が起き、多数の犠牲者を出しました。欧州では1月14日にプリンス・アルバート・ヴィクター(Prince Albert Victor, Duke of Clarence and Avondale, 1864–1892)が死去し、1月31日にはチャールズ・ハッドン・スポルジョン(Charles Haddon Spurgeon, 1834–1892)も没するなど、社会と宗教の象徴的人物の喪失が相次いだ時期でもあります。
この月の確認されている録音:0曲
1892年1月の録音に関する情報のまとめ
1892年1月の「録音」そのものについて、日付まで確定できる制作記録や録音日誌は資料上確認できない一方、当時の販売カタログや後年の研究整理から、円筒(シリンダー)録音が娯楽産業として品目を増やしていく過程が見えてきます。とくにコロンビア・フォノグラフ・カンパニー(Columbia Phonograph Company)の動向は、1892年1月に「口笛のスター」の録音がカタログに載るなど、歌唱以外の芸能も録音商品へ組み込まれていったことを示します。
コロンビア
1892年1月のコロンビア・フォノグラフ・カンパニー(Columbia Phonograph Company)のカタログでは、「スター口笛奏者」とされたジョン・ヨーク・アトリー(John Yorke AtLee, 1853–1933)の録音が初めて掲載されたとされます。また同時期に、ビリー・ゴールデン(Billy Golden, 1858–1926)による「“negro specialties”」が初めて載った、という研究整理もあります。これらは「1892年1月に録音された」ことを直接保証するものではありませんが、少なくとも同月の時点で、同社が口笛や寄席的演目を録音商品として扱い始めていたことを示す材料になります。
- https://timbrooks.net/PDFs/colhist78.pdf
- https://en.wikipedia.org/wiki/John_Yorke_AtLee
- https://adp.library.ucsb.edu/index.php/mastertalent/detail/107863/Atlee_John_Yorke
- https://en.wikipedia.org/wiki/Billy_Golden
シリンダー
1892年1月時点の主流媒体は、依然として円筒(シリンダー)でした。のちに普及するディスクの「プレス量産(スタンピング)」に相当する方法は当時のシリンダーでは確立しておらず、量産・流通は技術的制約を抱えたまま進んでいました(エジソンの金型成形法が導入されるのは1901年–1902年とされます)。この制約は、録音が「一品もの」に近い性格を残しやすいこと、同一題目でも録音や供給の形が揺れやすいことに直結し、1890年代前半の録音史料が断片的になりやすい背景にもなっています。
- https://www.loc.gov/collections/edison-company-motion-pictures-and-sound-recordings/articles-and-essays/history-of-edison-sound-recordings/history-of-the-cylinder-phonograph/
- https://en.wikipedia.org/wiki/Phonograph
ベルリナー
1892年は、円筒に対抗するディスク録音方式が「試作から製造へ」移っていく時期でもあります。エミール・ベルリナー(Emile Berliner, 1851–1929)は1890年代前半にグラモフォン(Gramophone)を市場へ出し、1892年に機械の製造や硬質ゴム盤への録音を進めたとされますが、商業的に入手可能な盤が「いつ、どの範囲で流通したか」までを1892年1月に限定して確定することは資料上確認できません。したがって1892年1月の段階では、ディスクはまだ円筒ほど一般化していない一方で、同年を通じてディスク方式の具体化が進んでいた、という位置づけになります。
- https://www.loc.gov/collections/emile-berliner/articles-and-essays/gramophone/
- https://en.wikipedia.org/wiki/Berliner_Gramophone
