Frank Goede (??-??)
Frank Goede(フランク・ゴエデ)は、19世紀末のベルリンで活躍した管楽器奏者であり、特にピッコロとフルートの名手として知られています。ただし、彼の名前は一般の音楽史にはほとんど登場しません。その理由は、彼の活動の多くが舞台や楽団の第一線というよりも、A. Theo. E. Wangemann の録音実験に協力した技術デモンストレーション演奏者として残っているからです。
録音技術とピッコロの相性
1889年5月24日、ベルリンのホテルの一室に設けられた仮設録音スタジオで、ゴエデは最初期の円筒録音において重要な役割を果たしました。当時の蝋円筒録音は非常に音が弱く、特に低音や弦楽器は録音が困難でした。そこで、高音域のはっきりしたピッコロとフルートは、当時の録音技術に最適な楽器とされました。
ゴエデは、フォノグラフの録音針が音の振動を正確に刻むために、特に連続する高音トリルや、明確なアタックの多いマーチ、ポルカを選曲しています。彼の録音レパートリーには、Gilmore’s 22nd Regiment March や The Warbler、Polish Dance (Scharwenka) など、技巧的でありながら旋律がはっきりした作品が多く含まれています。
ワンゲマンのメモには、ゴエデの演奏は「小さな部屋で演奏しても音が天井を突き抜けるようで、フォノグラフの録音針が一音も逃さない」と記されており、当時としては画期的な成果でした。これにより、エジソンの録音デモは欧州の王侯貴族や技術関係者に強い印象を与えることができたのです。
ゴエデの録音の残響と評価
残念ながら、Frank Goede 自身は録音史の表舞台には長く登場せず、録音後の活動記録はほとんど残されていません。しかし、彼の演奏を刻んだ蝋円筒の一部は、現在も UCSB Cylinder Audio Archive などのプロジェクトでデジタル化が試みられており、当時の録音技術と演奏様式の両方を知る手がかりとして評価されています。
彼の録音は、19世紀末の吹奏楽文化の一端を知る貴重な資料です。後に続く多くのピッコロ録音や吹奏楽録音の基礎を築いたと言っても過言ではありません。無名ながら、録音技術史に確かな足跡を残したゴエデの存在は、初期録音文化の奥深さを示しています。
