1895年に録音された音楽
1895年は、国境線の引き直しと帝国主義的な拡張が同時多発し、近代の大衆文化を支える「記録・伝送・見世物」の技術が一段進んだ年でした。東アジアでは、日清戦争の講和として下関条約が1895年4月17日に調印され、台湾などの割譲を含む大きな政治的転換が起きます。同年4月23日にはロシア・ドイツ・フランスが遼東半島返還を求める三国干渉を行い、戦後処理が国際政治の圧力で再編される現実が露わになりました。さらに朝鮮では、ミョンソン皇后(Empress Myeongseong, 1851–1895)が1895年10月8日に暗殺され、東アジアの権力構造が不安定化していきます。
大西洋世界でも、植民地支配と抵抗が新局面に入ります。キューバでは独立戦争が1895年2月24日に始まり、1895–1898の長期戦として展開しました。アフリカでは、第一次エチオピア–イタリア戦争が1895年1月13日に始まり、年末のアンバ・アラギの戦い(1895年12月7日)などを経て、欧州列強の「分割」と現地国家の抵抗が正面衝突します。またマダガスカルでは、フランス軍が首都アンタナナリボを1895年9月30日に占領し、フランスの植民地化が決定的になっていきました。
ヨーロッパの都市社会では、政治とメディア、そして「スキャンダル」が大衆の視線を集めます。フランスではアルフレド・ドレフュス(Alfred Dreyfus, 1859–1935)が1895年1月5日に軍籍剥奪の辱めを受け、同年春には南米沖の流刑地へ送られ、のちに社会全体を二分するドレフュス事件の象徴となりました。英国ではオスカー・ワイルド(Oscar Wilde, 1854–1900)が1895年に有罪となり重労働2年の刑を受け、法と道徳が文化人の生を直撃する時代の空気が刻印されます。
同年は「見えないものを見せる」「遠くへ届かせる」「その場を複製する」という技術が並行して加速した点でも重要です。ヴィルヘルム・コンラート・レントゲン(Wilhelm Conrad Röntgen, 1845–1923)は1895年11月8日にX線を観察し、同年12月に報告して世界的反響を呼びました。無線通信の領域ではグリエルモ・マルコーニ(Guglielmo Marconi, 1874–1937)が1895年に初期の無線電信実験を進め、通信が有線から解き放たれていきます。娯楽の領域では、オーギュスト・リュミエール(Auguste Lumière, 1862–1954)とルイ・リュミエール(Louis Lumière, 1864–1948)が1895年12月28日にパリで商業的な映画の公開上映を行い、観客が同じ時間を共有する新しいメディア体験が始まりました。録音もまた同じ地平にあり、1895年5月10日付の「United States Gramophone Company」カタログの存在は、円盤式の音の複製がすでに商品として提示されていたことを示します。
移動とスポーツの近代化も、同時代の大衆文化の土台をつくります。フランスでは自動車競走パリ–ボルドー–パリが1895年6月11日に行われ、米国ではシカゴ・タイムズ=ヘラルド・レースが1895年11月28日に開催されて「自動車競走」という新奇の見世物が成立しました。スポーツでは、英国で1895年8月29日にラグビーが分裂して北部ラグビー連盟が生まれ、職業化と観戦文化の道筋が明確になります。さらに米国では第1回全米オープン(ゴルフ)が1895年10月4日に開催され、競技の制度化が進みました。戦争・帝国・裁判・新技術・新しい見世物が同居する1895年は、録音史を文化の周縁ではなく、世界史の変化の中に位置づけ直すための参照点となります。
『Etching the Voice: Emile Berliner and the First Commercial Gramophone Records』のディスコグラフィ
ベルリナーの初期商業録音を集成した『Etching the Voice: Emile Berliner and the First Commercial Gramophone Records』のディスコグラフィに載っているもので、録音年表記が一律「1890–95」とされています。
| Title | Artist |
|---|---|
| Alfred Jones [version 2] | n/a |
| Auld Lang Syne | n/a |
| Blue Bells of Scotland | n/a |
| By thy cold breast (Byron’s “Manfred”) | n/a |
| Czarenlied, from “Czar und Zimmermann” | n/a |
| El Credo | n/a |
| Father William | n/a |
| The Flowers that Bloom, from “The Mikado” | n/a |
| Fra Diavolo | n/a |
| Gesänge | n/a |
| God Bless the Prince of Wales | n/a |
| God Save the Queen! | n/a |
| Gramophone | n/a |
| Hark! The Herald Angels Sing | n/a |
| Hobellied | n/a |
| Home! Sweet Home! | n/a |
| I Due Ladri e l’Asino | n/a |
| In the Sweet By-and-By | n/a |
| Jägers Abschied | n/a |
| La Boiteuse | n/a |
| La Marseillaise | n/a |
| La Rondinella | n/a |
| Le Corbeau et le Renard | n/a |
| Le Père la Victoire | n/a |
| Lena, la bella Lena | n/a |
| A Little Ship Was on the Sea | n/a |
| Long, Long Ago | n/a |
| Me Gustan Todas / Aroro Mi Nena | n/a |
| The North Wind | n/a |
| Numeri, La Settimana, Le Mesi | n/a |
| Numeros, Dias, Meses | n/a |
| Old King Coal | n/a |
| Old Mother Hubbard | n/a |
| Pilgrims’ Chorus, from “Tannhäuser” | n/a |
| Proverbs | n/a |
| Rule, Britannia! | n/a |
| Sing a Song of Sixpence / Oh, Carry Me Back | n/a |
| Sing a Song of Sixpence [3-in doll disc] | n/a |
| Ta-ra-ra Boom-de-ay! | n/a |
| Versos y Canto | n/a |
| We don’t want to fight [version 2] | n/a |
| Whist! The Bogie Man | n/a |
| Who Killed Cock Robin? | n/a |
| Willow Tit-Willow, “from The Mikado” | n/a |
| Wot Cher! | n/a |
これらは、主にロンドンやハノーファーで録音されたと考えられる最初期のグラモフォン円盤で、エジソン系シリンダーの系譜とは別系列の「ディスク側1890年代」のコアな音源群です。
ルーベン・コレクション(Ruben-samlingen)
ルーベン・コレクション(Ruben-samlingen)は、ゴットフリート・モーゼス・ルーベン(Gottfried Moses Ruben, 1837–1897)がコペンハーゲンで1889年から1890年代半ばにかけて制作した、デンマーク最初期の蝋管録音群です。1889年から1890年代半ばまでに録音された蝋管をMOPMではまとめて「ルーベン・コレクション」として整理し、録音一覧を専用ページに掲載しています。
