1913年9月に録音された音楽
1913年9月は、航空技術の前進と大衆文化の転換が同時に見える月でした。9月1日にはアドルフ・ペグー(Adolphe Pégoud, 1889–1915)が航空機の背面飛行を実演し、9月9日にはピョートル・ネステロフ(Pyotr Nesterov, 1887–1914)が初のループ飛行を成功させました。9月23日にはロラン・ギャロス(Roland Garros, 1888–1918)がフレジュスからビゼルトまで地中海横断飛行を成し遂げ、同日にはチャールズ・チャップリン(Charles Chaplin, 1889–1977)がキーストン社(Keystone)と契約して映画界へ本格的に入ります。9月29日にはオスマン帝国(Ottoman Empire)とブルガリア王国(Kingdom of Bulgaria)のあいだでコンスタンティノープル条約が結ばれ、第二次バルカン戦争後の国境秩序がさらに固められました。同じ9月29日にはルドルフ・ディーゼル(Rudolf Diesel, 1858–1913)が英仏海峡航行中の船上から姿を消し、近代工業史に大きな影を落としました。
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1913年9月の録音に関する情報のまとめ
1913年9月の録音関連市場では、秋商戦に向けた中価格帯のキャビネット型蓄音機の前面化と、シリンダー新譜の継続投入が同時に進んでいました。今回確認できた当月資料では、トーマス・A・エジソン社(Thomas A. Edison, Inc.)、ヴィクター・トーキング・マシン社(Victor Talking Machine Company)、コロムビア・グラフォフォン社(Columbia Graphophone Company)の動きは月単位で確認できましたが、他社は1913年9月に確定して結び付けられる同時代資料を十分に確認できませんでした。
エジソン
トーマス・A・エジソン社(Thomas A. Edison, Inc.)では、1913年9月号の『Edison Phonograph Monthly』で新型アンベローラIV・VIII・Xが打ち出され、同時に外付けホーン型蓄音機を1913年10月で終える方向が示されていました。加えて、同月のブルー・アンベロール発売群は1823–1840番で、『ペイシェンス』(Patience)抜粋、「ライト・キャヴァルリー序曲」(Light Cavalry Overture)、「アイ・ラヴ・ユー、カリフォルニア」(I Love You, California)、「アイド・ドゥ・アズ・マッチ・フォー・ユー」(I’d Do as Much for You)などを含み、この9月発売群には既存の四分シリンダー・アンベロール原盤から転じた題目も含まれていました。1913年9月のエジソンは、機械側ではキャビネット型への転換を鮮明にしつつ、ソフト面ではブルー・アンベロールの補強を続けていたと確認できます。
- https://www.worldradiohistory.com/Archive-All-Audio/Edison-Phonograph/Edison-Phonograph-Monthly-1913-Vol-11.pdf
- https://www.archeophone.com/downloads/notes/10010.pdf
ヴィクター
ヴィクター・トーキング・マシン社(Victor Talking Machine Company)では、1913年9月の『The Talking Machine World』において、新型ヴィクトローラXがサンフランシスコでアパートメント・ハウスやクラブ向けに積極的に売り込まれ、「長く求められていた需要」を満たす型として歓迎されていることが報じられました。さらに同月のニューヨーク市場報では、ここ数週間の店頭ウィンドーで75ドルの新型ヴィクトローラXが大きく打ち出されていたことが確認できます。したがって1913年9月のヴィクターは、秋商戦の入口で中価格帯のキャビネット機を都市生活空間向けに強く押し出していたと整理できます。
コロムビア
コロムビア・グラフォフォン社(Columbia Graphophone Company)では、1913年9月のセントルイス市場報で、新型リーダー75ドル機が「強い商品」として受け止められ、秋口の商況改善とともに支持を広げていることが確認できます。また同月のニューヨーク市場報でも、コロムビア・リーダー75ドル機がヴィクトローラX、アンベローラVIと並ぶ新製品として店頭で大きく扱われていました。さらに同じ9月号のロンドン報では、月次レコード・リストに「作曲者伴奏付き」と明記した録音が現れ、『サンズ・オブ・オールド・ロンドン』(Sons of Old London)でハーバート・オリヴァー(Herbert Oliver, 生没年不明)が自作録音に関与したことが「新時代」と評され、同月の現行リストには新しいラグタイムや大衆歌曲の継続投入も見えます。1913年9月のコロムビアは、中価格帯機の拡販と、月次レコード・リスト上の話題づくりを並行していたといえます。
