Edison Blue Amberol: Special
画像出典:Wikimedia Commons(Public Domain)
Edison Blue Amberol: Specialは、エジソン社のセルロイド製4分シリンダー「Blue Amberol」における、通常の連番カタログとは別枠で管理された“Special(特別企画)”の小セットです。中核はA–K(I欠番)の10タイトルで、もともと1910年4月にワックス製4分円筒(Amberol)として、2分機を4分対応にするためのアタッチメント(変換装置)購入者向けに提供された「Amberol Special Issues」のセットが、後にBlue Amberol(セルロイド)として“同じ文字記号のまま”再提示されたものです。したがって本シリーズは、録音そのものの新規性というより、既存(または既に用意されていた)レパートリーを販促用に再編集し、媒体移行期のBlue Amberolの文脈へ移植した「制度としての特別枠」を観察できる資料になります。
- https://adp-assets.library.ucsb.edu/edison_4m-cyls.pdf
- https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Edison_phonograph.jpg
シリーズの概要
本シリーズの要点は、A–K(I欠番)という文字体系で、Blue Amberolの通常番号帯から切り離されている点にあります。ディスコグラフィ上、これらは「Blue Amberol Specials(1912)」としてまとまりで扱われ、1910年4月に“2分機→4分対応”の変換を促すためのインセンティブとして用意されたワックスAmberolの特別セットが、のちにBlue Amberolとして再作成・再流通した経緯が明示されています。
この“Special”は、一般の月次カタログで広く販売されたタイトルではなく、流通条件が最初から制約付き(個別販売を想定しない)で設計されています。つまり、シリーズ名が指すのは「音楽ジャンル」ではなく、販売・配布の枠組み(パッケージ)であり、A–Kの文字記号はその枠組みを固定するための識別子として機能します。
シリーズの特徴
Edison Blue Amberol: Specialの特徴は、次の3点に集約できます。
第一に、A–K(I欠番)の“文字カタログ”であることです。通常のBlue Amberolは番号で管理されますが、本セットは文字で統一され、同一の文字が「ワックスAmberol特別セット」と「Blue Amberol特別セット」を貫いて同一パッケージ性を保持します。
第二に、タイトル編成が「実演デモ(軍楽)」「話芸(寸劇・語り)」「歌曲(男女デュオ)」「宗教歌(カルテット)」「器楽(序曲・ファンタジア)」などを含む横断型であることです。購買者に対して“4分の魅力”を短時間で伝えるための、いわば見本帖的な並びになっています。
第三に、同一素材が別枠へ再投入され得る点です。Kは通常番号のBlue Amberol(BA 5378)としても再発されたことが明記され、Specialが固定的な“閉じたシリーズ”ではなく、販促企画から通常流通へ移る回路を持つことが読み取れます。
成立の背景と販促(Special AmberolsからSpecial Blue Amberolsへ)
画像出典:Wikimedia Commons(Public Domain)
1910年前後、エジソン社は2分規格中心の既存ユーザーを4分規格へ移行させる必要がありました。しかし、機械側(再生機・リプロデューサー・アタッチメント)を更新させるには、価格や手間だけでなく「更新する理由=聴けるもの」を提示する必要があります。そこで、アタッチメント(変換装置)に付随する“特別セット”が企画され、1910年4月にA–Kの10本が、一定条件下で入手できる特典として提示されました。ディスコグラフィは、このセットが「合計1ドルで提供されたこと」「販売単位がディーラー向けのアタッチメント一式(Combination Attachment Outfits)に結びついていたこと」「個別販売を禁じた条件で運用されたこと」「標準カタログ番号を付与されなかったこと」を具体的に示します。
さらに重要なのは、同じA–Kが後年「Blue Amberol Specials(1912)」として再登場する点です。ワックスAmberol特別セットで成立した“文字パッケージ”が、セルロイドのBlue Amberolへ移植され、媒体更新期の訴求点として再利用されたことになります。なお、同時期には別の特別枠(例:ヘブライ市場向けの一群、D-接頭のプロモーション用24本リスト)も存在しましたが、少なくともディスコグラフィ上は、それらがBlue AmberolのSpecial枠へ同様に移植された扱いにはなっていません。ここに、A–Kセットの特異な“移植のされ方”が際立ちます。
- https://adp-assets.library.ucsb.edu/edison_4m-cyls.pdf
- https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Edison_Phonograph_1913_newspaper_ad.png
シリーズの歴史的意義
Edison Blue Amberol: Specialは、円筒メディアの末期に見られる「商品制度としてのシリーズ」を理解するうえで、非常に読み取りやすい例です。録音史の観点では、A–Kは必ずしも“新作の投入”を意味しませんが、販売史・媒体史の観点では、2分から4分への移行、ワックスからセルロイドへの移行、そして販促から通常流通への接続(Kの例)という、複数の転換点を1セットの中に凝縮しています。
また、A–Kが宗教歌・器楽・話芸・流行歌を跨いで編成されている事実は、当時のエジソン社が「特定ジャンルの深掘り」よりも、「新規格の価値を短時間で体験させる構成」を優先した局面を示唆します。結果として本シリーズは、Blue Amberolの技術的特徴(耐摩耗性・安定供給)だけではなく、購買者側の判断材料となる“聴取体験のパッケージ化”を、文字カタログという形式で可視化した史料となります。
A–Kまでの個別解説(I欠番)
本セットはA–K(I欠番)の10タイトルからなり、いずれも宣伝用に編成された短い「見本」的内容です。ディスコグラフィ上、A–Kはいずれも録音地・時期が「NY:Before Apr 1910」とされ、元は1910年4月にAmberol Specialとして提示された後、Blue AmberolのSpecial枠(1912年)へ再編された経緯が示されています。内容は吹奏楽、話芸(モノローグ/寸劇)、声楽(宗教歌や二重唱)、器楽独奏(サクソフォン)などを混在させ、家庭用蓄音機の実演に向く構成になっています。
Special A:The four Jacks — March(吹奏楽)
出自:Amberol Special A(およびヘブライ市場向けセットのSpecial Lと同一内容)由来です。
演者:ニューヨーク・ミリタリー・バンド(New York Military Band)。
曲目:行進曲「The four Jacks — March」。作曲者表記はLincoln(別名義Losch)です。
注記:同内容がヘブライ市場向けセットでは「Die fier dzecks marsch」として現れます。
Special B:Father’s eccentricities(話芸+歌唱)
出自:Amberol Special B由来です。
演者:マリー・K・ヒル(Murry K. Hill, 1865–1942)(語り/歌唱)、管弦楽伴奏。
曲目:「Father’s eccentricities」(Hill)。内部構成として「Father was out」「Alphabet song」が注記されます。
性格:話芸・寸劇系(語りを中心にしたコメディ)の代表例で、セット内で“台詞中心の長尺物”を担います。
Special C:If I must say farewell, Kate, let me kiss your lips goodbye(独唱)
出自:Amberol Special C由来です。
演者:マニュエル・ロメイン(Manuel Romain, c.1870–1926)、管弦楽伴奏。
曲目:「If I must say farewell, Kate, let me kiss your lips goodbye」。
性格:流行歌・バラード系(歌唱)を担う枠で、話芸・器楽枠と並ぶ“歌物”の柱として位置づけられます。
Special D:The ninety and nine(宗教歌)
出自:Amberol Special D由来です。
演者:エジソン・ミクスト・カルテット(Edison Mixed Quartet)。
曲目:宗教歌「The ninety and nine」(Sankey–Clephane)。
性格:宗教歌・合唱系を代表し、娯楽系だけに寄らないセット編成を示します。
Special E:Scenes that are brightest — Fantasia(器楽独奏)
出自:Amberol Special E(およびヘブライ市場向けセットのSpecial Mと同一内容)由来です。
演者:H・ベニー・ヘントン(H. Benne Henton, 1877–1938)(サクソフォン)。
曲目:Wallace作「Maritana」から「Scenes that are brightest」に基づくファンタジア。
注記:同内容がヘブライ市場向けセットでは「Szenen wos seinen die lebendigste」として現れます。
性格:クラシック由来の器楽ファンタジア枠で、話芸・流行歌とは異なる訴求を担います。
Special F:Two rubes swapping horses(寸劇)
出自:Amberol Special F由来です。
演者:スティーブ・ポーター(Steve Porter, 1863–1936)+エドワード・ミーカー(Edward Meeker, 1874–1937)(語り/歌唱)、メロディオン伴奏。
曲目:「Two rubes swapping horses」(Porter)。導入に「The old gray mare」が付記されます。
性格:“田舎者(rube)”を題材にした掛け合い寸劇で、4分の長尺を活かしやすい話芸の典型です。
Special G:I’m looking for a sweetheart(声楽:デュエット+合唱+管弦楽)
出自:Amberol Special G由来です。
演者:エイダ・ジョーンズ(Ada Jones, 1873–1922)+ビリー・マレー(Billy Murray, 1877–1954)、合唱+管弦楽伴奏。
曲目:「I’m looking for a sweetheart」(Burnside–Klein)。括弧注記として「Sporting Days」が付されます。
性格:男女デュオに合唱を重ねた“商品力が高いポピュラー歌唱”を代表し、セット中の娯楽性を強く支えます。
Special H:Tramp! Tramp! Tramp!(声楽:デュエット+合唱+管弦楽)
出自:Amberol Special H由来です。
演者:バイロン・G・ハーラン(Byron G. Harlan, 1861–1936)+フランク・C・スタンリー(Frank C. Stanley, 1868–1910)、合唱+管弦楽伴奏。歓声(cheering)付きと注記されます。
曲目:「Tramp! Tramp! Tramp!」(Root)。
性格:合唱・歓声を含む高揚演出が特徴で、家庭内再生でも“イベント感”を作る設計です。
Special J:The Hermit’s Bell Overture(管弦楽)
出自:Amberol Special J(およびヘブライ市場向けセットのSpecial Oと同一内容)由来です。
演者:アメリカン・シンフォニー・オーケストラ(American Symphony Orchestra)。
曲目:「The Hermit’s Bell Overture」。
注記:同内容がヘブライ市場向けセットでは「Dem nosir’s glok overture」として現れます。
性格:序曲=純器楽枠として、セットの“格調”を担う位置づけです。
Special K:The Peerless Minstrels(話芸+歌唱)
出自:Amberol Special K由来で、通常番号のBlue Amberol(BA 5378)としても再発されたことが明記されます。
演者:ピアレス・カルテット&カンパニー(Peerless Quartet & Company)、管弦楽伴奏。
曲目:「The Peerless Minstrels」。内部に含まれる演目として「The humming coon」「Climb up, ye chillun, climb」が挙げられます。
性格:ショー仕立てのメドレー(ミンストレル系)として、当時の大衆娯楽の一類型を示します。
- https://adp-assets.library.ucsb.edu/edison_4m-cyls.pdf
- https://museum-of-pop-music.com/company/edison/edison-blue-amberol-special-a_k/
- https://museum-of-pop-music.com/company/edison/edison-amberol-special-issues/
- https://en.wikipedia.org/wiki/Murray_K._Hill
- https://en.wikipedia.org/wiki/Manuel_Romain
- https://de.wikipedia.org/wiki/H._Benne_Henton
- https://en.wikipedia.org/wiki/Steve_Porter_(actor)
- https://en.wikipedia.org/wiki/Edward_Meeker
- https://en.wikipedia.org/wiki/Ada_Jones
- https://en.wikipedia.org/wiki/Billy_Murray_(singer)
- https://en.wikipedia.org/wiki/Byron_G._Harlan
- https://en.wikipedia.org/wiki/Frank_C._Stanley
資料と研究状況(主要ディスコグラフィ/一次資料の範囲)
本シリーズの基礎情報(セットの成立条件、個別販売の可否、標準番号の不付与、Blue Amberolへの移植、A–K各項目の演者・曲目・注記)は、アラン・R・サットン(Allan R. Sutton, 生没年不詳)によるディスコグラフィ「Edison Four-Minute Cylinders: Amberols, Blue Amberols, and Royal Purple Amberols (Domestic Issues, 1908–1930)」の当該章(Amberol Special Issues/Blue Amberol Specials)にまとまって提示されています。
一方、Specialの性格を一次資料(当時の社内誌・販促文書)側から補強する場合、エジソン社の月刊誌(The Edison Phonograph Monthly)に掲載されたアタッチメント販促や“特別レコード”の扱いに関する記述が、制度運用の背景説明として重要になります。ただし、一次資料側は“企画意図・販売条件”の説明が中心になりやすく、A–K各項目の曲目・演者・注記を一望する用途には、上記ディスコグラフィのような整理資料が不可欠です。
したがって研究上は、(1) ディスコグラフィでA–Kの同定と注記(ヘブライ向けセットとの同一性、通常番号への再発など)を確定し、(2) 月刊誌などの一次資料で「なぜそのセットが必要だったのか」「どのような条件で配布されたのか」を裏づける、という二層の読み合わせが最も堅牢です。
